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研究テーマ

 香川大学植物病理学研究室は、秋光和也研究室(農学部)・五味剣ニ研究室(農学部)・市村和也研究室(農学部)のメンバーにより、植物と病原微生物との相互反応を分子レベルで解明することを研究目的としています。植物病理学的視点から、植物病害の防除に向けた応用研究に結びつく、分子レベルのメカニズムの解明を進めています。

 植物病理学研究室では、これまでに宿主特異性機構、植物ホルモン、細胞壁分解酵素、抵抗性・感受性機構に関する研究を進めてきており、近年地場産業の一つであるカンキツ病害やイネ病害に関する研究、病原菌・イネ・虫との3者系研究、イネ・シロイヌナズナ・タバコ等を用いたシグナル伝達機構研究も進展させています。さらに、希少糖の植物に対する作用に関する研究も精力的に進めています。

宿主特異的毒素を介した植物ミトコンドリア病に関する研究
 宿主特異的ACR毒素の作用点は感受性カンキツ品種ラフレモンのミトコンドリアであり、その作用機構はミトコンドリア膜への孔(pore)形成による機能障害ではある。本研究室ではACR毒素の作用を担う遺伝子として、ラフレモンミトコンドリアゲノムに座乗し、大腸菌で発現させることにより通常はACR毒素耐性である大腸菌を毒素感受化させることができる171 bpの遺伝子ACRSを明らかにした。ACRSは孔形成型の膜貫入レセプタータンパクによく見られるSDS-PAGEにより解離しないSDS耐性型多量体を形成する。また、本遺伝子ORFのフルサイズの転写物はACR毒素感受性のラフレモンミトコンドリアRNAからのみ検出され、検定したすべての毒素抵抗性カンキツミトコンドリアRNAでは、転写物が断片化し分解されていることが明らかになった。ミトコンドリアゲノムに座乗する遺伝子のmRNA修飾の有無で、宿主特異性が決定される例は、極めて新規な発見であり、現在このプロセッシングに関与するタンパク質の精製に成功し、その機能の解析が進展している。
 

 ACR毒素感受性ラフレモンでは、毒素レセプターが座乗する領域のmRNAの修飾欠損により、レセプターが翻訳され、毒素に感受化すると考えられる

宿主特異的毒素生合成遺伝子クラスター解析
 宿主特異的毒素の生合成遺伝子解析では、Alternaria brown spot病菌の生産するACT毒素生合成遺伝子クラスターに関する研究を進め、部分的類似化学構造を持つ日本産のナシ黒斑病菌のAK毒素生合成酵素遺伝子のホモログが、米国産のACT毒素生産菌ゲノムの1.9Mbの染色体に座乗し、標的遺伝子破壊やRNA silencing法でこれらの生合成遺伝子産物の機能が毒素生産に直結することを明らかにしている。ACT毒素生合成に関与する10遺伝子の全長配列とその機能を明らかにし、本毒素の生合成に関与する遺伝子のほぼ全容を明らかにしている。またACR毒素の生合成に関与する遺伝子もいくつか明らかになり、1.5Mbの染色体上に座乗することが明らかになっている。


細胞壁分解酵素の病原性における役割に関する研究

腐敗症状を誘起するカンキツ黒腐病菌(Alternaria citri)と、宿主特異的毒素を生成するが腐敗症状を誘起しないカンキツAlternaria leaf spot病菌(Alternaria alternata rough lemon pathotype)を用いて、99%の配列類似性を示すペクチン分解酵素遺伝子を両菌でそれぞれ破壊し、腐敗症状を誘起する病原菌におけるendo型ポリガラクツロナーゼの役割はその他の病原菌より大きいことを明らかにした。また、カンキツ黒腐病菌のendo型ポリガラクツロナーゼ遺伝子は、環境要因によるプロモーター制御を受けることやGFP発現株により感染行動を明らかにしている。




カンキツ防御機構の解明に関する研究
 果樹・樹木の耐病性に関する分子生物学的知見は少ない。そこで、ラフレモン抵抗性に役割をもつ遺伝子群を明らかにするために、抵抗反応を誘導した状態の葉mRNAより作成したcDNAライブラリーから、サブトラクション法を用いて、これまでに約20の抵抗性関連遺伝子をクローニングし、これらの遺伝子発現様式や機能を明らかにしてきた。これらの遺伝子を用いて、宿主特異的毒素のPAMPsとしての役割や、新規耐病性遺伝子の役割の解明とともに、カンキツからの揮発性物質の主因子であるモノテルペンの生合成、機能、生物活性に関する研究も進展している。

希少糖の植物に対する作用とその応用に関する研究
 「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と定義された希少糖の大量生産技術の確立に香川大学が世界で初めて成功しました。量産体制に入った希少糖の幾つかが、動植物や微生物に作用を及ぼすことが明らかになり、植物への防御関連遺伝子群の発現誘導活性や生育調節活性に関する作用の研究が、植物病理学研究室を中心とした香川大学チーム、三井化学アグロ、四国総合研究所の3機関の共同研究で進展しています。本研究は生研センターの支援の下に大型プロジェクトとして、希少糖の植物への応用に向けて研究を推進しています。



病原菌・イネ・虫との3者系相互反応に関する研究
 人間が病気にかかるように、植物も病気にかかります。
しかも植物は動物と違ってその場から逃げることができません。その為、植物は様々な手段を用いて病原体の攻撃に対して「抵抗」します。

本研究室では病原体攻撃時における植物体内の抵抗性誘導機構に深く関与する、植物ホルモンであるジャスモン酸に着目し、そのシグナル伝達機構などを、主にイネを用いて遺伝子レベルで解析しています。

さらに、植物から放出される複数の植物揮発性物質(香り成分)が、病害虫抵抗性に深く関与していることを、イネやカンキツを用いた研究から見出し、現在その香り成分を合成する酵素遺伝子群の解析を詳細に行っています。

また、これまでの「植物‐病原体」の2者間での植物病理学研究とは異なった視点で、元九州沖縄農業研究センターの菅野らによって見出された「植物‐昆虫‐病原体」といった、3者間の関係(3者間相互作用)にも着目して研究を行っています。

将来的には、病害抵抗性に重要な遺伝子を特定し、少しでも病気に強い作物の作出を試みたいと思っています。