香川大学国際学術・交流プロジェクト5「東南アジア産の植物の生物活性物質を利用する医薬・農薬の研究開発と早生樹のバイオマス利用」および応用生命化学研究センター 合同第10回公開セミナーの実施報告

農学部・教授 片山健至

 平成27年11月10日(火)午後3時30分~5時、香川大学農学部BW106講義室にて、香川大学国際学術・交流プロジェクト5「東南アジア産の植物の生物活性物質を利用する医薬・農薬の研究開発と早生樹のバイオマス利用」と応用生命化学研究センターが共催する合同第10回公開セミナーを開催し,ボゴール農業大学林学部教授(同大学院研究科教授)のWasrin Syafii(ワスリン シャフィー)先生に“FOREST BIOMASS UTILIZATION IN INDONESIA”(インドネシアにおける森林バイオマス利用)」について講演していただきました。
 参加者は,片岡農学部長,農学部教員・留学生を含む大学院生・学部学生,農学部外からインターナショナルオフィース教員,医学部大学院生等44名でした。
 片山教授によってセミナー開会の挨拶とW. Syafii先生のご紹介が行われました。現在,ボゴール農業大学農学部および大学院研究科と本学部および本研究科とは学術交流協定を締結していて,また,ボゴール農業大学と本学とは,連携協力協定として熱帯農業に関するSix University Initiative Japan Indonesia (SUIJI) コンソーシアム協定を締結しています。また,W. Syafii先生と本学部バイオマス化学研究室とは,2002年から共同研究,連大留学生の受け入れ,最近ではSUIJI-JDP-Msプログラム派遣留学等々の交流を重ねてきました。そこで,上記のプロジェクト5のインドネシアにおけるカウンターパート教員として,今回招聘した次第です。
 W. Syafii先生による講演の冒頭にボゴール農業大学の紹介をしていただきました。同大学の場所,歴史,全学の組織の概要を述べられ,そして,先生が所属している林産物学科(Department of Forest Products)とそこの林産化学講座(Division of Forest Products Chemistry),さらに同講座所属の5教員研究室(先生はWood Chemistry/Extractives, この他にPulp and paper, Wood Chemistry/Lignin, Non-Wood Forest Products, Natural Products Chemistryを専門とする4教員)を紹介されました。同学科は本年から米国Society of Wood Science and Technology (SWST)の国際認証評価を得たそうです。上述した現行の学部間の学術交流協定を大学間の協定に格上げする予定で準備中ですが,そのためにも有益な内容でした。
 講演の本題にはいり,インドネシアにおける林地・森林の現況,森林資源利用の過去と現在,木材生産,木材利用の現況,種々の木材製品,非木材林産物(総論と各論)を解説されました。特に,非木材林産物としてインドネシア産の種々の樹脂については,先生のご専門が抽出成分であることから詳細であり,生松脂[ガムロジンとテレピン油(terpentine)の製造,それらの利用,テレピン油の構成化学成分],Cayuput oil,Sandalwood oil,Tengkawang oil,Copal,Damar,Kemenyan (Benzoic),Jelutung,Gaharu (Agarwood)ついて知ることができました。そして,ラックカイガラムシの分泌物であるShellack (Lack),さらに,インドネシア産薬用植物(この抽出物を同国では伝統的にjamuという)に言及されました。
我国においては,森林の機能として環境面が強調されますが,インドネシアでは非木材林産物として環境面(エコツーリズム・景観・狩猟)が含まれるということで,大変斬新に思いました。
 次に,森林資源を森林バイオマスと言い換えて,その今後の利用について,すでに大径木を入手できないという木材供給状況の悪化の一方でバイオマス利用効率は向上してきた現状に基づいて,解説されました。特に,全樹木(すなわち全樹種,全部位,全化学成分)の利用の重要性を強調されました。今後の木材工業はそのようなコンセプトに基づいて,複合木質材料,パルプ・紙等,バイオマスからのエネルギーと化学製品,非木材林産物を生産するものとなる。なぜならば,これらは,低品質な材,小径木,木材残渣,植物(非木質)部分,全化学成分を利用するものであるからと述べられました。続いて,セルロース,へミセルロース,工業リグニンの利用について述べられました。最後にディケンッズの”It was the best of times, it was the worst of times”という言葉を引用して,良質な木材の供給状況が悪化している今こそ,木質バイオマスの科学と技術を発展させてその利用を開発する絶好機であると結ばれ,大変感銘を受けました。
 この後,活発な質疑を行い,17:00に閉会いたしました。


[tribulant_slideshow gallery_id=”40″]