推薦の辞

なんという素晴らしい取り組みだろう!

大屋崇氏と同様に私も10歳の頃、百科事典でトリバネアゲハのすばらしさを知った。この有名なチョウは私の人生を彩ることになる情熱の原点である。大屋氏が1983年に出版された『トリバネアゲハ大図鑑』という壮大な本が、私にその美しさだけではなく、研究に対するトリバネアゲハへの溢れる情熱を永遠に燃焼させることになった。私の研究を通して大屋氏の著書は、私の知識を豊かにするために広く参照されたし、私の研究の多くを支えてくれた。

1997年、同僚のJean-Pierre Sclavo氏と日本を訪れた時、私たちの優先事項は彼に会うことであった。彼の素晴らしいコレクションを拝見したかったし、彼の献身的な協力のおかげで私達が企画していた『Outstanding Birdwing Butterflies(傑出したトリバネアゲハ)』という大図鑑(2015刊行)のための写真撮影もできた。この非常に親切な人物は私たちの来日をできる限り快適にかつ実りあるものにするためにあらゆる手を尽くしてくれた。

大屋氏は今回もまた、彼の規範的コレクションに含まれるすべての標本をデジタル作品化するという安井行雄博士の素晴らしいアイデアを実現し、それを惜しげもなく披露することによって、この時代の形態学的な肖像画を残してみせた。インターネットという魔法によって、全世界の人々が彼の巨大な作品にアクセスし、標本を鑑賞し、研究することができる。トリバネアゲハ研究家や地球上の生命の進化の不思議に情熱を燃やすすべての人々に、私は大屋氏が提供した『トリバネアゲハデジタル大図鑑』に代表される素晴らしい贈り物を利用することを強くお勧めする。

 

2024年12月30日

Gilles Deslisle, トリバネアゲハ研究家、カナダ Montréal 昆虫館研究員

 


 

『トリバネアゲハデジタル大図鑑』の発刊を祝す

「蝶」という言葉を聞いて連想することは、世界各国でいろいろ様々であるが、大雑把に言うと、北国の人は足元をチラチラ飛ぶ、小さなものを思い浮かべ、南国の人は樹上を悠々と羽ばたいて飛ぶ、大型のものを連想するようである。

トリバネアゲハの仲間は、東南アジア一帯に棲む世界最大、そしてーー主観を交えることを恐れずに言えばーー最美の蝶であって、その飛翔の光景は、一度見たら忘れられないものである。

この度、トリバネアゲハの全種、全亜種を高精細の写真に撮り、デジタルの図鑑を発行するという、真に壮大な仕事が完成した。著者らは総計3,286個体のトリバネアゲハの標本写真を撮り、そのために、5年4ケ月の時間を費やされたという。蝶の翅の表面のみならず、裏面も図示されている。

蝶の標本は、時間と共に劣化するが、この撮影によってその美しさがほぼ永久に保存されると思われる。これらのことは、従来の蝶類図鑑ではできなかったことである。(そんなことをしたら、重量もあり、非常識な程の大冊になってしまう。紙の図鑑だと、とても両手で持ち上げられないし、足の上に落としたなら、指が潰れるような大冊になるであろう。)これが実現したのは、デジタル技術のおかげである。やがては、実物そっくりのトリバネアゲハが、書斎の中に設らえられた樹林の中を飛び回るという時代にもなるのであろうか。

ちなみに、この撮影のモデルとなった大屋コレクションの標本は、東京大学の総合博物館に保存されることになるという。実は、かく言う筆者の昆虫コレクションも同じところに保存される予定なので、やがては同じところに並ぶという、光栄に浴するのだと嬉しく思った次第である。

 

2025年1月11日

奥本大三郎 フランス文学者 埼玉大学名誉教授 ファーブル昆虫館館長

 

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