トリバネアゲハ属 自然雑交種 (Ornithoptera Natural hybrid)
1. アロッテトリバネアゲハ (O. allottei (Rothschild, 19144)) [♂] [♀: alottei Niepelt, 19162) ])
(O. (A.) victoriae x O. (O.) priamus urvillianus )
2.タカネトリバネアゲハ (O. akakeae Kobayashi & Koiwaya, 19781) [♂]
[♀: Otani & Kimura, 19983)])
(O. (O.) priamus poseidon x O. (S.) rothschildi )
1.アロッテトリバネアゲハ(O. allottei (Rothschild, 1914))8)
(O. (A.) victoriae x O. (O.) priamus urvillianus )
ビクトリアトリバネアゲハとメガネトリバネアゲハと中間的な美しい斑紋と色彩を持つ、極めて稀なこのチョウ(♂)はブーゲンビル島でAllotte神父によって発見された。そのチョウの採集者である彼は新種ではなく自然雑交種ではないかと思ったようであるが、この標本の提供を受けたRothschild8)は1914年に新種として発表した。その後まもなく、ブーゲンビル島でKiblerが採取した蛹から幸運なことに1対の成虫を得ることができ、Niepelt5)によって1916年に報告された。しかし、彼は標本のスケッチを基に記載したようである。その翌年の1917年、PeeblesとSchmassmann7) によってさらに1対が報告された。標本が次第に増えるにつれて雑種説や新種説が論じられるようになっていった。すなわちRousseau-Decelle (1939)9)は雑種説を、一方Zeuner (1943)11)やMunroe (1961)4)は新種説を唱えた。1970年代に入り、さらなる標本の増加に伴い詳細に研究されるようになり、Schmid (1970)10)やD’Abrera (1975)1) は新種説に賛同したが、それに対しMcAlpine (1970)3)やHaugum & Low (1978)2) は雑種説を選んだ。Schmit(1973)10)が述べているように本当に証明する方法は人工交配以外にはないだろうと思われた。1986年、ついにStraatman によってこの問題の結論が出された。結果は雑種であった。著者(大屋)6)は彼(オーストラリアのケアンズ)から同年8月31日付の一通の封書を受け取った。封筒の中には4枚の写真(3♂♂、1♀)と手紙が入っていて、新種か雑種かを証明するための人工交配が遂に成功したということが記されてあった。しかも♂は黄金色をしていて実に見事なものであった。かくして、最初の発見以来72年間にわたって議論されてきた問題はここに終結を迎えたのである。
(分布)PNG (Bougainville島);SOLOMON諸島 (Malaita島, New Georgia諸島, Nggela諸島)。
(発見と原記載のエピソード) ブーゲンビル島のブイン(Buin)で、Abbé Allotte神父が採集した1♂を基に、彼の名にちなんで1914年、Rothschildが新種として発表したのが最初である。その後、ドイツの採集家Kiblerは、同地で蛹から1対の羽化に成功するという大変な幸運に恵まれた。1916年Niepeltはこの標本の簡単な紹介と、その図を“Lepidoptera Niepeltina”に掲載した。また、翌年の1917年にはPeebles自身が所蔵していた♀の標本について、Schmassmannとともに詳しい説明をしている。
(斑紋)♂:翅形および前翅表面はメガネトリバネアゲハ、後翅の斑紋はビクトリアトリバネアゲハに似る。裏面の斑紋は前・後翅ともメガネトリバネアゲハに似るが、眼球後縁の白色の縁取りや胸部の紅毛がない。
♀:メガネトリバネアゲハに酷似するが、眼球後縁の白色の縁取りや胸部の紅毛がないので識別は容易である。
2.タカネトリバネアゲハ(O. akakeae Kobayashi & Koiwaya, 1978)1)
(O. (S.) rothschildi x O. (O.) priamus poseidon)
このチョウは小林平一・小岩屋敏氏1)により1978年、新種として報告された。タイプ標本 (♂)はIwan Toeante氏が同年、INDONESIA(Irian Jaya)のArfak山脈の標高2,500mに連なる山塊において採集したものである。その後、同形の標本は発見されることがなかったため、雑種ではないかという疑いがもたれるようになっていった。1997年、Bali 島在住の出谷裕見氏の努力により上記の両種間の自然雑交種であることが証明され、同時に♀も明らかになった(大谷卓也・木村康彦3))。
(分布)INDONESIA(Arfak山脈 2500mに連なる山塊)
(発見と原記載のエピソード) I. Toeanteが1977年9月19日、アルファック山脈標高2500mに連なる峰つづきの山塊で採集した1♂に基づき小林平一、小岩屋敏の両氏により記載された。なお、種名akakeaeはフサアカシアになぞらえて命名された。
(斑紋)♂:前翅はメガネトリバネアゲハに似るが、性標がないのが特徴である。後翅の斑紋はロスチャイルドトリバネアゲハに似る。側胸部の紅毛は存在する。
♀:著者(大屋2))が「トリバネアゲハ大図鑑」に図示したものとは異なり、前翅はロスチャイルドトリバネアゲハに似ているが中室斑があり、後翅は翅室斑の発達したメガネトリバネアゲハに似て、中室先端に白斑がある。腹部はメガネトリバネアゲに似て乳白黄色である。
キシタアゲハ属 自然雑交種 (Troides Natural hybrid)
1.セレベスキシタアゲハ(T.(T.) celebensis (Wallace, 1865)3)[♂][♀: unknown ])
(T. (T.) haliphron haliphron x T. (T.) helena hephaestus )
2.セレベスキシタアゲハ亜種(T.(T.) celebensis selayarensis Kobayashi & Koiwaya, 19812) [♂]
[♀: unknown])
(T. (T.) haliphron pallens x T. (T.) oblongomaculatus thestius )
3.ブルキシタアゲハ変異(T.(T.)prattorum ♂-f. mixtum (Joicey & Talbot, 1923)1)
(T. (T.) oblongomaculatus bouruensis x T. (T.) prattorum )
1.セレベスキシタアゲハ(T. celebensis (Wallace, 1865)2)
(T. (T.) haliphron haliphron x T. (T.) helena hephaestus)
Wallace2)が1865年に発表した「Malay 地方のアゲハチョウ科に見られる地理的分布の現象について」という論文の中に、自ら採集したCelebes(=Sulawesi)島のMacassarで採集した1♂に基づいてヘレナキシタアゲハの地域変異として記載されたものである。その後、人工交配により雑種であることが証明された。
(分布)INDONESIA: Sulawesi(=Celebes)島(Macassar)
(発見と原記載のエピソード) Wallace (1865)がセレベスのマカサルで採集した1♂をもとにヘレナキシタアゲハの地方型として記載したもの。なお、celebensisは生息地Celebesにちなむ。
(斑紋)♂、♀ともヘレナキシタアゲハに似るが、後翅の斑紋が小さくハリフロンキシタアゲハの特徴を表している。♀の標本は初めての表示と思われる。
Ssp. selayarensis Kobayashi & Koiwaya, 19811)
(T. (T.) haliphron pallens x T. (T.) oblongomaculatus thestius)
小林・小岩屋1)によりSulawesi島の南部産である名義タイプ亜種celebensis 8♂♂と南の海上に位置するSelayar島など9♂♂を比較して、Selayar島産はSulawesi島産より後翅の半透明黄金斑が小さいこと、腹部の色が明るいということでcelebensisの亜種として1981年報告された。
(分布)INDONESIA:Selayar島。