3.亜種 lydius (Felder, 1865)8)[♂,♀]
(分布)INDONESIA [Maluku] Halmahera (=Gilolo) 島 (Galela, Tobelo, Ibu, Togola Wayoli, Susupu, Goal, Jailolo, Bicoli, Gani), Doi島, Ternate島, Tidore島, Goraici諸島 (Kayoa島)。[分布図30]
(発見と原記載のエピソード)M. Lorquinによりハルマヘラ島で採集された(採集日は不明)♂♀の標本が1864年Felderにより図示され、その翌年同氏によりPapilioの新種lydius (Croesus王の統治国Lydiaにちなむ。Lydiusは“Lydia人の”を意味する)として記載された。
(特徴)両性とも非常に個体変異が多い。
(斑紋)♂:斑紋の色が金橙色または金赤橙色で、名義タイプ亜種よりも暗く、黄緑色の幻色がある。前翅の亜前縁帯は幅広いが、逆に臀縁帯は幾分小さい。後翅の半透明黄金斑のうち亜前縁室、第6室および中室では名義タイプ亜種よりも大きいが、亜外縁斑は欠如する。黒色翅室斑点は0から5個まで個体差がある。裏面では後翅の肘脈および第2 – 4翅脈の黒の縁取りは太い。
♀: 翅の地色は暗褐色で翅の辺縁および翅脈を除き灰色の斑紋がほぼ全体を占める特有の外観をしているので識別は容易である。前翅では内側に尖る亜外縁帯があるに過ぎないし、後翅も暗翅室斑点があるに過ぎない。亜外縁部は黄褐色であるが、その部の裏面は鮮明な黄白色である。
(変異)数多くの変異が記載されている。
♂-f. berchmansii van den Bergh, 192823): (前翅の斑紋変異)表面で通常は存在しない亜外縁帯が存在し、よく発達した個体では臀縁帯と結合する。
♂-f. boutoni Haugum & Low, 197911): (前翅の斑紋変異)亜前縁帯に半透明黄金斑が存在するもの。本亜種や亜種toeantei では出現頻度が高く、数や大きさも個体差が顕著である。
♂-f. flammeus Niepelt, 193116): (前翅の斑紋変異・両翅の色調変異)翅の表面の斑紋の色がオレンジ赤色。前翅の亜前縁帯は幅広く、第7, 6, 5室では先が尖る。第8,7,6室の先端付近に微細な半透明黄金斑点がある。
♂-f. pannis Parrott & Deslisle, 198717): (前翅の斑紋変異・後翅の色調変異)前翅の斑紋は著しく広がり、その中に大きな半透明黄金斑が多数存在する。後翅は部分的に緑色を帯び、下方の4室はより暗い鱗粉で覆われる。
♂-f. watsoni Haugum & Low, 198112): (後翅の斑紋変異) 表面で、黒色翅室斑点を欠如するもの。亜種 poseidon ♂-f. cronius と同じ変異である。
♂-f. nigra van den Bergh, 192823): (黒化型)。前翅の亜前縁帯が翅頂まで届かない。後翅の黒色翅室斑点が大きく互いに融合する。裏面では黒化はより顕著である。
♂-f. nigrocincta Rousseau-Decelle, 193519): (黒化型) 後翅の黒色翅室斑点は5個(第3-7室)あり、肘脈(中室下脈)を縁取る黒色鱗の帯は約2㎜で、2および3脈の基部で幅広い。
♂-f. perroni Deslisle & Sclavo, 20085): (前・後翅の色調変異)前翅の亜前縁帯の基側半分、そして後翅の基部半分はオリーブ緑色で残りの亜外縁は本来のオレンジ色。
♂-f. laplantei Deslisle & Sclavo, 20085): (前・後翅の色調変異)前翅の亜前縁帯は燃える炎の様な翅頂部を除けば黒色鱗に覆われて暗い赤色。後翅はオレンジ褐色で翅室側がより暗い。
♂-f. pseudocroesus Deslisle & Sclavo, 20156): (前・後翅の色調変異) 前・後翅とも斑紋の色がオレンジ赤色ではなく名義タイプ亜種croesusに似て黄橙色のもの。
♂-f. olivei Parrott & Deslisle, 198717): (特殊な個体変異) この個体は典型的なオレンジ色ではなく部分的にオリーブ緑色という特殊な要因を持ち、前翅ではf. boutoniとf. berchmansii, 後翅ではf. watsoni という異常型が組み合わさっている。後翅では翅脈に沿う部分と暗いオレンジ色の亜外縁斑以外はオリーブ色。
♀-f. nudus Parrott & Deslisle, 198717): (白化型)。前翅では亜外縁の暗色帯が欠如するため亜翅頂斑、亜外縁斑および翅室斑は完全に融合する。後翅には僅か3個(第5-7室)の非常に小さい暗色翅室斑点が存在するに過ぎない。翅脈の黒の縁取りも狭い。
♀-f. fusca Sumiyoshi, 198921): (黒化型)。全体に黒化が強く、斑紋内の暗色部は拡大する。後翅の中室斑は微細。後翅裏面の亜外縁部の黄色は濃い。
♀-f. jeanne-d’arcae Deslisle, 19962): (黒化型)高地 (1,000m) 産。正常では前翅に15 から18個ある白斑が僅か5個しかない。前翅の中室斑は正常であるが、ただ小さい翅室斑が4個あるに過ぎない。後翅は正常であるが暗い。
f. loc. toeantei Parrott & Schmid, 198418) [♂, ♀]
= morotaiensis Sumiyoshi, 198921) [♂, ♀](Morotai島)
(分布)INDONESIA [Maluku] Morotai島 (Daeo川流域, Sabatai-baru), Loleba Kecil島。 [分布図30]
(発見と原記載のエピソード)モロタイ(Morotai)島産のアカメガネトリバネアゲハ(O. croesus)に最初に注目した人はHaugum & Low (1979)である。彼は大英博物館(自然史)が所蔵する標本の写真を提示し異常型として報告している。その後、I. Toeante氏が1982年から1983年にかけて、標高約800mで採集または羽化させた標本17 個体 (6♂♂, 11♀♀)に基づいてParrottとSchmidの両氏がcroesusの亜種として記載した。亜種名は採集者I. Toeante氏に因む。
(特徴)♀の翅の地色が濃く、斑紋が小斑化するのが特徴である。
(斑紋)♂:多くの個体を考慮すれば、亜種lydiusとの識別は困難。
♀:亜種lydiusに似るが、翅地色は一層濃く、黒褐色かほとんど黒色で、斑紋は白色で、褐色ではなく黒色鱗で覆われる。
(変異)亜種lydiusと同じようないろいろな変異が見られる。
♂-f. croesuides Dufek & Schäffler, 20067): (前・後翅の斑紋変異)前翅の亜前縁帯は亜翅頂部で著しく拡張し、後翅には名義タイプ亜種と同じように半透明黄金斑が翅室と亜外縁に2列存在する。
♂-f. carinae Schäffler, 200120): (前翅の斑紋変異)前翅の亜前縁帯が著しく幅広く、余分な亜外縁帯と結合する。また、臀縁帯の上方で肘脈の下方にも余分の小さなオレンジ斑が現れる。
♂-f. martini Dufek & Schäffler, 20067): (後翅の黒化型) 中室の下方および第1b -5室の大部分が濃い黒色鱗で覆われる。
♀-f. agatheae Deslisle & Sclavo, 20085): (後翅の色調変異)斑紋全体が明るい黄色であるもの。