arruana（アル諸島亜種）

13. 亜種arruana Felder, 1859¹⁵⁾ [♂, ♀]

= eumaeus Rippon, 1892⁴⁶⁾ [♂,♀]（Aru諸島）

（分布）INDONESIA [Maluku] Aru 諸島 (Kola島, Wokam (=Tanahbesar)島, Wamar島, Kobroor島, Maikoor島, Koba島, Trangan島)。  [分布図18]

（発見と原記載のエピソード）最初の発見者であるWallaceは、1857年1月から3月までアル諸島で1♂、3♀♀を採集した。その時の様子を後日(1869)、次のように述べている。「翌日と翌々日は風雨が強くて外出ができなかった。しかしその次の日は太陽がさんさんと輝き、私は世界で最も豪華な昆虫のひとつである大型のメガネトリバネアゲハ（Ornithoptera poseidon）を捕獲するという幸運に恵まれた。そいつが堂々とした飛翔で向かってくるのに気づいたときには興奮で体がふるえ、網からそれを取り出し、差し渡し17.5センチもあるベルベット状の黒と燦然と輝く緑の翅、金色の胴体と深紅色の胸を、驚嘆のあまり我を忘れて見つめるまでなかなか信じられなかった。それは故国で標本箱に入っているのを見たのとよく似たチョウではあったが、自分自身で捕らえたものは全く別物である ― 指の間で暴れるのを実感し、その新鮮な生きている美しさをまじまじとみつめるとき、輝かしい宝石が暗い密林の静寂な影のなかで光を放つのだ。『マレー諸島』（新妻昭夫訳、筑摩書房）」その標本はFelderに渡り、1859年Ornithopteraの新種として記載された。

（特徴）亜種hecuba と同様、亜種poseidon から同時代（更新世）に分かれたと考えられる。そのため両亜種はよく似ているが、次の点で識別できる。

（斑紋）♂：斑紋の緑色は表裏とも多少青味を帯びる。後翅の亜前縁室に黄金斑はなく、黒色外縁帯は狭い。

♀：亜種hecuba と同様、淡色型と濃色型があるが、hecubaとは逆に淡色型が多く、濃色型は極めて稀である。淡色型は亜種poseidonより翅幅が狭く、後翅の後角が尖り、斑紋は灰褐色による陰りが強く不明瞭である。

（変異） ♂-f. viridocellularis Haugum & Low, 1981²²⁾: (前翅の斑紋変異）亜種 hecuba と同一変異（中室内に１～２㎝大の緑色斑が存在する）。(➡hecuba )

♂-f. viridodentis Deslisle & Sclavo, 2008⁹⁾: (前翅の斑紋変異）表面で、中室内に緑色斑が存在し、さらに中室端から翅頂へ向かって犬歯状に２、３個 緑色斑が伸びるもの (➡misoollae, teucrus )。

♂-f. chrysophila (Rothschild, 1908)⁵¹⁾: (後翅の斑紋変異）黒色翅室斑点はなく、亜外縁に褐色斑点が４個あり、その内の上３個は中心が黄金斑。亜前縁室にも黄金斑がある (➡hecuba ♂-f. immaculata）。

♂-f. caramalei Parrott & Deslisle, 1989⁴³⁾: (特殊な変異）前翅表面の亜前縁帯と亜外縁帯は明るい褐色で覆われる。臀縁帯は緑色。後翅は非対称的に外側半分が褐色で覆われる。前翅中室には赤褐色の長い斑紋と短い斑紋がある。

♂-f. eumaeus Rippon, 1892⁴⁶⁾: (前・後翅の色調変異）翅の表面は光沢があるクジャク色に近い緑青で、特に前翅では青色の濃い輝きがある。後翅の亜前縁室は濃い緑色。

♀-f. pseudohecuba Deslisle, 2004⁷⁾: (前・後翅の色調変異）亜種 hecuba に似て濃色型（黒い地色に白色の斑紋）をしたもの。本亜種では稀である。