5.亜種samson Niepelt, 191315) [♂, ♀]
= joiceyi Noakes & Talbot, 191511) [♂,♀](Anggi湖, Arfak山脈)
(分布)INDONESIA [Irian Jaya] Doberai半島(Manokwari, Arfak山脈 (Meni, Minyambow, Dimaisi, Mebo (=Arfak)山, Ikumabow, Anggi Gigi地域, Memti, Sibjo, Tobes, Mismel, Bikela))。 [分布図54]
(発見と原記載のエピソード)最初の標本は、アルファック山脈地域で採集された2対(採集日および採集者とも不明)、1913年Niepeltは種supremusのf. samson (ペリシテの美女Delilahに裏切られたイスラエルの英雄―旧約聖書)と命名した。一方、同地域のアンギ(Anggi)湖(6000フィート)で、1914年1月から2月にかけPratt親子によって採集された1♂1♀の標本をもとにNoakesとTalbot (1915)は新種joiceyi (Hill博物館の創立者で、英国の有名な昆虫学者J.J. Joicey [1870-1932]に献名されたもの)として記載した。その論文ではgoliath、titan、supremusとは比較して述べてはいるが、同一産地のsamsonについては一言も触れていない。このことからすれば、Niepeltの論文を知らなかったと思われる。また同論文中の変異については、同年3月に採集された16♂♂、8♀♀をもとに書かれたものと推測される。
西澤孝(1980)「西イリアン探検採集紀」やどりが101・102号p.37に載った1974年2月16日、Dimaisi (標高1800m)における日本人初採集の一節を紹介する。「二つの川が合流する地点で右の上方に赤い木をみつけた。相当急な崖であったが、うまく足場を作りながら、目指す所へ何とか、たどりつく。数mちょっとの木に、赤というより橙色の花が満開だ。ちょうど峰の突先に、その木がつき出ている格好である。はやる気持ちを抑え、我々は期待した。ジリジリと時聞が立つ。しかし、空には雲がだんだんと増してくる。だいたい一日中快晴などという事は、西イリアンではとても望めないのだ。「石川さん、ダメかなあ。」「イメージとピッタリなんだが……。」と突然、目の覚めるような大型の蝶が背後の原生林から現れた。スーと滑空したあと、花の前で翅を逆回転して、急ブレーキをかけた。一瞬の間、その蝶は空間の一点にとまった。私には確かにそう見えたのである。しゃがんでいた私は、立ちあがりざまにネットを振り倒していた。こういうのを条件反射というのだろう。バサッバサッと、伏せた網の中で、緑と黒と黄金色とがきれいに配色された蝶がもがいていたのである。とうとうやった!それも初めてのチャンスをものにしたのである。こんな事があっていいのだろうか……。まぎれもない本当のゴライアストリバネの雄であった。傷一つない大型の奴である。さすがにズシリと重い。続けてもう一度同じコースで現れる。今度は石川氏がしとめた。ずいぶん長い時間がたった気がした。いつのまにか雨が降り出していたらしく、興奮していた我々は、ぬれるのも全然気がつかなかったのである。そして後ろ髪をひかれる想いをしながら、帰路についた。興奮しているせいか、何度も転ぶ。転ぶ度に、三角缶を開けては中の獲物を確かめた。あの警察や移民局に何度もかよった苦労や、キャラバンでの苦しかった事も、今は何もかもが消え失せていた。ただ、あの金緑色にキラッと輝いた瞬間のひとコマひとコマが、よみがえってくるだけだった。その晩、私は驚くほどの熱がでて、体温計はかるく、40℃の目盛りをこえたのであった。おそらく、たび重なる疲労を支えていた緊張がプツンと切れ、それに加え、極度の興奮をしたせいかもしれない。この日、私は22回目の誕生日を西イリアン、アルファック山脈のまっただ中で迎えたのだった。」
(特徴) 極めて限られた地域で、標高1,000 – 2,000 m に生息する。
(斑紋)♂:腹部側面に高地性特有の黒色毛と黒色斑がある以外には他の亜種との識別点はない(個体差があり、稀に黒色斑を欠如するものもある)。
♀:個体変異が著しい。多くの個体では前翅の斑紋は中等度の大きさで、灰色の陰りが強く不明瞭。後翅の翅室斑は灰色で亜外縁は黄土色で灰色の陰りが強いものと、全体が黄土色のものなど変化に富む。また腹部が黒と黄色のまだら模様になる個体と全体が黄色の個体とがある。
(変異) ♂-f. sumulei Deslisle & Sclavo, 20154): (前翅の斑紋変異) 亜前縁帯と肘状帯が非常に広がり、翅頂部で互いに結合した上、半透明黄金斑点が中室内の上下に各1個と第2翅室の中室側に1個存在するもの。
♂-f. primitus Deslisle & Sclavo, 20154) (➡procus )
♂-f. joiceyi Noakes & Talbot, 191511): (前・後翅の色調変異)緑色斑が黄金色を帯びるもの。
♂-f. letiranti Deslisle & Sclavo, 20083): (前・後翅の色調変異) 前翅の亜前縁帯の基部および前縁を除き、前・後翅の表裏の緑色斑が赤色を呈するもの。
♂-f. sanguismaculata Deslisle & Sclavo, 20154): (前翅の色調変異)前翅の亜前縁帯の翅頂部や翅室に赤い色素斑が出現するもの。(➡supremus, titan)
♀-f. mirificus Deslisle & Sclavo, 20154): (前・後翅の斑紋変異) 地色は黒褐色。前翅では細長い亜翅頂斑以外はすべて点状。後翅の翅室斑は黄色で黒色翅室斑点は前縁室、第5, 6室だけに存在し点状になるもの。
♀-f. praeclarus Deslisle & Sclavo, 20154): (前・後翅の斑紋変異)前翅の斑紋は著しく大きく、後翅の翅室斑も広がり、さらに暗色翅室斑点は小さく第4,3室では痕跡程度である。
♀-f. samson Niepelt, 191315): (前翅の斑紋変異) 中室斑が欠如するもの。
♀-f. flavomaculata Sumiyoshi, 198925): (後翅の色調変異)翅室斑は発達し中室端斑も存在し、しかも濃い黄色を呈するもの。
♀-f. subalbus Deslisle & Sclavo, 20083): (前・後翅の色調変異)斑紋は表裏とも純白で、後翅にも黄色鱗がないもの。
♀-f. solaris Dufek & Schäffler, 20065): (前・後翅の色調変異) 前翅の翅室斑を除くすべての斑紋が黄色のもの。
♀-f. inaurareus Deslisle & Sclavo, 20154): (前・後翅の色調変異)斑紋の色はすべて黄色。前翅では前縁と後縁に緑色の縁取りがある。後翅の暗色翅室斑点は大きい。
♀-f. roseus Deslisle & Sclavo, 20154): (前翅の色調変異)斑紋は黄色で、部分的に薄いピンク色が亜外縁部に出現するもの。
♀-f. rubra Dufek & Schäffler, 20065): (後翅の色調変異) 黄色の翅室斑の一部が赤色鱗で置き換わる。