charybdis（マオケ山脈亜種）

2．亜種charybdis (van Eecke, 1915)¹⁵⁾[♀][♂: dracaena (Joicey & Talbot, 1922)⁷⁾]

= dracaena (Joicey & Talbot, 1922)^７） (Weyland Mts., Irian Jaya)

（分布）INDONESIA [Irian Jaya] Yamur湖地域, Urema 川流域, Hamuku, Nabire, Meno, Wanggar川流域, Kobowre山脈 (Sterren山, Kunupi山, Mapia), Siriwo川, Paniai湖地域 (Enarotali), Otakwa川上流, Jayawijaya Mts., Baliem渓谷(Wamena), Angguruk。（*注：原産地はオランダ領New Guinea (Central)と記載されているが正確な場所は不明）[分布図47]

（発見と原記載のエピソード）原記載者はR. van Eecke (1915)である。そのもとになった1♀の標本は、オランダの第3回中央ニューギニア探検で採集されたものである。彼は 「1912年11月25日、G. Versteeg氏が探検地で捕獲した1♀。産地が明確に示されていないのは残念である。」と述べているが、地理的には確実に生息しているマオケ(スノー)山脈がもっとも妥当と考えられる。なお、亜種名charybdisは、海の渦巻きが擬人化された怪物であるCharybdisにちなむ。一方、dracaenaはその翌年の1916年、Pratt兄弟により採集された3♀♀をもとに、JoiceyとTalbotにより新亜種として記載された。また、♂は同じJoiceyとTalbot (1922)により最初に記載されたが、その標本もPratt兄弟により1920年6月、デワロ(Dewaro)部落(ウェイランド山脈、標高3500フィート)で採集されたのである。

（特徴）西側 (Irian Jaya) に分布し、東側 (Papua New Guinea) に生息する名義タイプ亜種よりは幾分小型である。

（斑紋）♂：前翅の帯は幅広く黄色を帯び、特に肘状帯は幅広い。前翅裏面でも黒色条斑は狭く、緑色部が広い。後翅の半透明黄金斑はより大きく、亜種flavidiorに似て第5-6室では黒色翅室斑点の外側まで広がる個体も多い。

♀：翅の地色は黒褐色。前翅はより突出し、翅幅が狭い。斑紋は白く灰色の陰りは少ない。後翅も翅幅が狭く、翅室斑の外側は灰色で黄色が少ない。

（変異）♂-f. quinquemaculata Parrott & Deslisle, 1986¹⁰⁾: (前・後翅の斑紋変異) 前翅では亜前縁帯と肘状帯が翅頂部でかすかに融合。後翅では半透明黄金斑が緑色部によって第３-４室で分断するもの。

♂-f. polyconfluenta Ohya, 1983⁹⁾: (前翅の斑紋変異）上記の変異に似るが、さらに臀縁帯と肘状帯が後角部でも融合する上、中室を覆う黒色部の基側のほぼ2/3が涙形の緑色部になり、その中に小さな半透明黄金斑が存在するもの。

♂-f. confluenta Haugum & Low, 1979⁵⁾: (前翅の斑紋変異)　肘状帯と臀縁帯が後角で、さらに肘状帯が亜前縁帯と翅頂で融合するもの。（➡chimaera ）

♂-f. dioni Deslisle & Sclavo, 2008³⁾: (前翅の斑紋変異)　半透明黄金斑点が中室の翅室側や第３室で肘脈に沿って線状に存在するもの。（➡chimaera ）

♂-f. sangnifluens Rousseau-Decelle, 1935¹⁴⁾: (前翅の斑紋変異): 肘状帯内に大きな三角形をした非常に濃い赤色を帯びた褐色鱗が散在する。これは臀縁帯の中央部でも見られる。

♂-f. manguini Deslisle & Sclavo, 2015⁴⁾: (前・後翅の色彩変異）前翅では３本の帯（亜前縁帯、肘状帯および臀縁帯）の基側が青緑色で、後翅外縁の緑色部がオレンジ色をしたもの。（➡chimaera ）

f. loc. dracaena (Joicey & Talbot, 1916)⁶⁾ [♀] [♂: Deslisle, 2004²⁾]

（分布）INDONESIA [Irian Jaya] Wandammen 半島 (Wondiwoi山脈 (Wasior))。[分布図47]  

（発見と原記載のエピソード）最初に発見された３♀♀の標本はA., C.およびF. Pratt親子が1914年11月、当時オランダ領ニューギニア（Irian Jaya）のWandammen山脈 (3000-4000 ft)で採集したが、♂は残念ながら現地の採集人が採りそこなった。しかしJoiceyとTalbotは1916年、その３♀♀だけに基づいて亜種dracaena として記載した。その６年後(1922)、別の山系であるWeyland山脈で採集された６♂♂を、先に命名したdracaenaと同一亜種にしたが、Zeuner (1943)が亜種charybdisのシノニムとして以来、問題視されなかった。1998年、Deslisleはこれまで未知であったWandammen山脈 (Wondiwoi山脈)産の２♂♂（Sclavo,大屋所蔵）を見出し、亜種charybdisに比べ、金緑色斑が著しく小さいという特徴に基づいて2004年に亜種charybdisの地域変異として報告した。Dracaenaはアフリカ原産の植物である竜血樹属（Dracaena）に因む。

（特徴）採集された標本は極めて少なく、おそらく♂と♀を併せて２0頭以下と思われる。2004年まで♂の記載はなく、長い間顧みられなかったが２♂♂（Sclavo, 大屋）の特徴が一致したことでDeslisle (2004) によって亜種として再報告された。今後のさらなる検索が待たれる。

（斑紋）♂：前翅の３本すべての緑色帯が著しく縮小し、黒化する。後翅の黒色外縁帯も他の亜種の約２倍の幅がある。

♀：前翅の中室斑は大きいが、他の斑紋は小さい。後翅の中室先端斑は他の亜種より大きく、地色で太く縁取りされる。翅室斑も広がり、中室先端斑を除き黄色である。