rothschildi（ロスチャイルドトリバネアゲハ）

6) ロスチャイルドトリバネアゲハ（Sp. rothschildi Kenrick, 1911⁵^））[♂, ♀]

分布がArfak山脈地域だけという非常に限られた高地性の小型の種である。Kenrickが1911年に初めて報告してから1970年代に西澤孝氏が再発見するまでは、もっとも希少性が高いトリバネアゲハであった。しかし、この再発見により生息地では多産していることが分かった。本種はチトヌストリバネアゲハ（O. tithonus ）とキマエラトリバネアゲハ (O. chimaera )と共通する形態が多く、一時キマエラトリバネアゲハの亜種に分類されていたこともある。現在、他に亜種は知られていない。

（分布）INDONESIA [Irian Jaya] Arfak山脈地域 (Minyambow, Dimlinda, Hingk (=Nukumo), Andang, Ikumabow, Anggi Gigi-Anggi Gita, Sibjo, *Mt. Koberai (8,000 ft)）。 [分布概念図 13], [分布図49]

（垂直分布）海抜　2,000 – 2,500 m。

（発見と原記載のエピソード）Kenrick (1911)により記載された最初の♂は、現地人が彼の採集者C. B. Prattにもたらしたもので、その採集地はアルファック山脈のコベライ(Koberai)山(8000フィート)である。その他の標本は、1910年3月、6000フィートまたはそれ以下で採集されたものである。なお、種名は英国のLionel Walter Rothschild卿(Tring博物館の創立者でもあるチョウ研究の大家)に献名し命名された。

（斑紋）♂：前翅の翅頂および後角は丸味を帯びる。後翅も楕円形で、内側にわずかに切れ込みがある。黒色の地色は暗青紫の光沢があり、他の種群と同様に前翅には３本の緑色帯があるが、いずれも狭く、黒色鱗による濃い陰りがある。後翅は幅広い黒色の内・外縁帯で囲まれ、内縁から広がる緑色部と亜前縁室、第5・６室にある緑色鱗で囲まれた黒色翅室斑点を除けば半透明黄金斑。腹部の下面は黒と黄色の毛による縞模様を形成する。側胸部の紅毛は多い。

♀：翅幅は狭く、外縁は波状で、特に後翅の凹凸は顕著である。翅の地色は暗褐色ないし黒褐色。前翅では他の斑紋はあるが中室斑がないのが特徴である。後翅の翅室斑は中室を取り囲む様に存在し、外縁は深い切れ込みがある特有の形をしている。暗色翅室斑点は丸く、互いに孤立する。腹部は全体が密な黒毛と黄色毛とで縞模様を形成する。側胸部の紅毛はある。

（変異）♂-f. kenricki Haugum & Low, 1979^４）: (前・後翅の斑紋変異) 前翅の斑紋は縮小し、わずかに青色を帯びた淡い緑色で、暗紫灰色の幻色がある。後翅の第２ – ５室の黒色翅室斑点は大きく長く、互いに融合し、さらに幅広い内縁帯とも融合して中室の周辺を湾曲する幅広い黒色翅室帯を形成する。

♂-f. maculatuscaeroleus Deslisle & Sclavo, 2015²⁾: (前翅の斑紋変異）左前翅の翅央黒色部に青色鱗が散在するもの。

♂-f. fabricei Deslisle & Sclavo, 2008¹⁾: (前翅の斑紋変異）亜翅頂斑内に黄金斑点が存在するもの。O. alexandrae を除くすべてのOrnithopteraの種に存在する。

♂-f. edai Deslisle & Sclavo, 2015²⁾: (後翅の斑紋変異）正常にある内側から広がる緑色帯を欠き、中心に黒色点のある緑色斑点が亜前縁室、第６-５室に計３個ある。ゴライアストリバネアゲハ (O. goliath ) に似る。

♂-f. oceanus Schäffler, 2001⁸⁾: (前・後翅の色調変異) 斑紋の色が青緑色のもの。

♂-f. imperialis Dufek & Schäffler, 2006³⁾: (前・後翅の色調変異) 前翅の斑紋が赤色鱗の混在で部分的にオリーブ緑色になる。後翅の黄金斑にも赤色鱗が存在する。

♂-f. sublustris Parrott & Deslisle, 1986⁷⁾: (特殊な変異) 左右の斑紋が非対称的で前翅の右表面だけが黒化し、亜前縁帯と臀縁帯が僅かに存在するもの。

♀-f. illustris Parrott & Deslisle, 1986⁷⁾: (前・後翅の斑紋変異) 前翅は翅室斑と亜外縁斑が完全に融合するが中室斑はない。後翅の翅室斑は拡がり、暗色翅室斑点は著しく縮小するか欠如する白化型。

♀-f. mariejeanneae Deslisle & Sclavo, 2008¹⁾: (前・後翅の斑紋変異) 黒化型。前翅では亜翅頂斑の下方のものは消失し、上方のものは微細。後翅では白色翅室斑は縮小し、亜前縁室、中室および第６室は無紋。第２-５室では暗色翅室斑点は拡大し互いに融合する。

♀-f. kenricki Deslisle & Sclavo, 2015²⁾: (後翅の斑紋変異）暗色翅室斑点が大きく広がり、互いに融合して中室を取り囲むように湾曲する幅広い帯を形成するもの。

♀-f. kirschoides Haugum & Low, 1979⁴⁾: (前・後翅の色調変異) 前翅の斑紋は明るい黄土色、後翅の翅室斑は濃いカドミウム黄色からクローム黄色。

♀-f. colorfucus Deslisle & Sclavo, 2015²⁾: (前・後翅の色調変異) 両面とも斑紋や地色などがすべてピンク色を帯びる。(人工的？)

（食草）ロスチャイルドウマノスズクサ (Pararistolochia sp. D (from Arfak Mts.))⁶⁾