すべての生物の細胞は、細胞膜によって外界と隔てられています。細胞膜は、細胞内外の物質の輸送や外部環境の変化を感知するなど、生命活動に欠かせない役割を担っています。  
 出芽酵母の細胞膜には、MCC(Membrane Compartment occupied by Can1) と呼ばれる特殊な膜領域(マイクロドメイン)が存在します。この領域では、細胞膜が内側に細長くくぼんでおり、その内側には Eisosome(エイソソーム) と呼ばれるタンパク質複合体が形成されています。
 Eisosomeは、細胞膜の構造を維持し、外部からのストレスに対応するために重要な役割を果たすと考えられています。

図1.Eisosomeの細胞内局在と微細構造
左:蛍光顕微鏡による観察では、Eisosomeの主要構成タンパク質Pil1が、細胞膜に沿って点状または線状に分布する様子が確認できます。
右:急速凍結レプリカ電子顕微鏡法によって観察した酵母の細胞膜です。矢印で示した細長い溝状の構造がMCC/Eisosomeに相当します。この構造は長さ約200〜300 nm、深さ約50 nmという非常に小さなものです。
大阪公立大学・宮田先生、田原先生(現・NANIWA-EM)との共同研究による

 Eisosomeには20種類以上のタンパク質が局在すると報告されていますが、その多くの働きはまだ十分にわかっていません。
 その中でも、Pil1とLsp1はEisosomeの基本構造を形成する重要なタンパク質です。これらは細胞膜の内側に結合し、膜がくぼんだ構造を安定化させると考えられています。
 一方、Sur7ファミリーやNce102ファミリーに属する膜タンパク質もEisosomeに局在し、その形成や機能の調節に関与しています。

図2.Eisosomeを構成するタンパク質とその役割
正常な酵母(Wild-type)では、Pil1、Lsp1、Sur7ファミリー、Nce102ファミリーなどのタンパク質が協調して、細胞膜の溝状構造を形成しています。
一方、Pil1を欠損させた酵母(pil1Δ)では、Eisosomeの正常な構造が失われます。ただし、Lsp1などの一部の構成タンパク質は、細胞膜上に残存することがあります。
下段の蛍光顕微鏡写真は、正常な酵母とPil1欠損株におけるEisosome関連タンパク質の局在の違いを示しています。

 私たちは、Eisosomeの形成に関わるタンパク質の働きを詳しく調べるため、Pil1や6種類の膜タンパク質(6-Tsp)を欠損させた酵母を作製しました。
 その結果、Pil1と6種類の膜タンパク質を同時に欠損させると、細胞膜の正常な溝状構造が失われ、さらに細胞膜にダメージを与えるストレスに対して著しく弱くなることを見いだしました。
このことから、Eisosomeに存在する複数のタンパク質が協調して、細胞膜の構造とストレス耐性を維持していることが明らかになりました。

図3.Eisosome関連タンパク質の欠損による膜構造とストレス耐性の変化

上段:電子顕微鏡による細胞膜の観察結果です。正常な酵母では溝状の構造が見られますが、Pil1や6-Tspを欠損させると、その構造が変化・消失します。

下段:正常な酵母と各種遺伝子欠損株の生育を比較した実験です。細胞膜にストレスを与えるSDSや高濃度の塩(NaCl)を含む培地では、Pil1と6-Tspを同時に欠損した酵母の生育が著しく低下します。

この結果は、Eisosomeが細胞膜をストレスから守るために重要であることを示しています。

 細胞は、外部環境の変化や細胞膜へのダメージを感知すると、それに対応するためのさまざまな仕組みを働かせます。その一つが、TORC2と呼ばれるタンパク質複合体によるシグナル伝達経路です。
 TORC2は、細胞膜の状態に応じてYpk1というタンパク質リン酸化酵素を活性化し、細胞膜を構成するスフィンゴ脂質の合成などを調節します。私たちは、Eisosome関連タンパク質を欠損させた酵母から、細胞膜ストレスへの感受性を抑制する変異株を分離し、その原因遺伝子を解析しました。
 その結果、TORC2の構成因子であるTor2に生じた変異が、細胞膜ストレスに対する耐性に関係していることを見いだしました。

図4.細胞膜ストレス耐性に関わるTor2タンパク質の変異

上段:Eisosome関連タンパク質を欠損した酵母はSDSに対して高い感受性を示しますが、そこから分離した変異株では、SDSに対する耐性が回復しています。
下段:変異株を解析した結果、Tor2タンパク質の異なる領域にアミノ酸置換が生じていることがわかりました。

これらの結果から、Eisosomeの機能とTORC2によるストレス応答の間に密接な関係があると考えられます。

 私たちの研究から、Eisosomeは単に細胞膜にくぼみを形成するだけでなく、細胞膜の安定性やストレス応答の調節に関わる重要な構造であることがわかってきました。
 Eisosomeを構成するPil1、Lsp1、Sur7ファミリー、Nce102ファミリーなどのタンパク質は、互いに協調しながら細胞膜の構造と機能を維持していると考えられます。
 また、細胞膜にストレスが加わると、TORC2–Ypk1経路が活性化され、スフィンゴ脂質の合成調節を通じて細胞膜の恒常性維持に関与します。

図5.Eisosomeによる細胞膜の構造維持とストレス応答のモデル

Eisosomeは細胞膜に形成される特殊な構造であり、複数の膜タンパク質とPil1などによって構成されています。
この構造が正常に機能することは、細胞膜のストレス耐性にとって重要です。また、TORC2–Ypk1経路は、スフィンゴ脂質代謝を調節することで細胞膜の恒常性維持に関わっています。
私たちは、Eisosomeの構造とTORC2シグナル伝達の機能的な関係を明らかにすることを目指しています。

 細胞膜の構造や脂質のバランスを正常に保つ仕組みは、酵母だけでなく、ヒトを含むさまざまな真核生物にとって重要です。Eisosomeそのものは主に菌類で見られる構造ですが、動物細胞には、細胞膜のくぼみを形成するCaveolae(カベオラ)と呼ばれる構造があります。両者は異なる構成タンパク質を持つものの、細胞膜の安定性やストレス応答に関わるという機能的な共通点があります。

参考文献

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