アレキサンドラトリバネアゲハ (Sp. alexandrae (Rothschild, 1907)6)) [♀] [♂: (Jordan, 1908)4)]
1属1種で、他にこの種に準ずる種がいないという特異な存在である。
(分布)PNG [NP]Taututu, Hurata, Kumusi川流域, Mambare 川上流(Biagi), Sanananda, Popondetta地域, Sila, Afore地域, Tufi, Wanigela。 [分布概念図 4][分布図8]
(発見と原記載のエピソード)Tring博物館の標本蒐集のためニューギニア地域を訪れ、数多くのチョウの新種を発見した有名な採集家Meekが、1906年1月マンバレ川の上流、標高5000フィートのビアギ(Biagi)で、最初の♀をショットガンで撃ち落した。彼は「このチョウはビクトリアトリバネアゲハを思い起こさせるほどよく似ている。その時♂も見たが、空高く飛んでいて採集することはできなかった」という書簡を添えて、その標本をRothschildのもとへ送った。一方、Jordanへは「このチョウは、この採集の旅の援助者であるRothschildの名誉のために、彼の名にちなんで命名すべきだと思う。」という意見を書き送ったが、結局、Rothschild(1907)はビクトリアトリバネアゲハに近似するという理由で、その当時の英国の王Edward 7世の妃Alexandra女王に献名しalexandraeと命名し発表した。その記載文の中で、Rothschildは「Meek氏が再びこの地を訪れ、多くの雌雄の標本を得ることを期待している」と述べているが、Meekはそれを裏切ることなくその年の1907年、待望の♂を採集したのである。それはJordanによりSeitz編“世界大型鱗翅類大図鑑”に記載された。
RothschildとMeekの原文は以下のとおりである。
(Rothschild:Novit. zool. XIV:96, 1907)「Meek氏はこの♀を発見した場所へ(ふたたび)行くつもりであり、一連の雌雄の標本を手に入れることに成功するよう願っている。♂は空高く飛んでいるのが見受けられたが、採集することはかなわなかったとはいえ♀に似た長い翅を持っていた。この新種にTroides victoriaeとの関係を考慮すると、alexandraeという名称は非常にふさわしいと思う。」
(Meek, Cannibal. :173, 1913)「この標本を本国に送る際、私はTring博物館のJordan博士に手紙を書き、これは私が鱗翅目の中でまだ行ったことがない最も重要な発見なので、Walter Rothschild卿の名に因んで命名すべきだと提案したが、Rothschild卿はこれには同意されず、Troides victoriaeに近似するということでTroides alexandraeと命名された。」
(垂直分布)海抜0 – 1, 500 m。
(特徴)本種はPapua New Guineaの南東部の北の海岸にあるPopondetta地域を中心とした極めて限られた地域のみに生息していて、絶滅が危惧されているため、現在ではワシントン条約(CITES)(付属書I)によって国際的に厳しく保護されている。
特徴として次のことが列記される。
- チョウの中では世界最大である。
- ♂の翅形がビクトリアトリバネアゲハ亜属 (Subg. Aetheoptera )に似て前・後翅とも細長い楕円形であるが、後翅の内縁の切れ込みは軽度である。
- 前翅の中室はビクトリアトリバネアゲハ亜属ほどではないが、メガネトリバネアゲハ亜属 (Subg. Ornithoptera )、ゴクラクトリバネアゲハ亜属 (Subg. Schoenbergia )よりはしゃもじ状。ビクトリアトリバネアゲハ亜属では第2 – 4脈が近接するが、本亜属では第5脈まで接近する。
- ビクトリアトリバネアゲハ亜属には存在しない側胸部の紅毛や眼球後縁の白色の縁取りがある。
(斑紋)♂:巨大であることと、特異な色彩と斑紋とで、他種との識別を誤ることはない。前翅には幅広い青味を帯びた金緑色の亜前縁帯と黒褐色の性標を取り囲む様に金青色の肘状帯と臀縁帯がある。後翅は金青緑色で、黒い縁取りと中室脈の縁取りがあり、とくに肘脈に沿う黒色の部分は幅広い。
♀:極めて巨大。黒褐色の地色に灰褐色の斑紋がある。前翅の斑紋は小さく、中室斑を欠如する個体が多い。後翅の翅室斑は長くほぼ中室に達するが幅は狭い。また円形の褐色の翅室斑点は小さい。
(変異)♂-f. atavis Rumbucher, 19737): (後翅の斑紋変異)亜外縁に半透明黄金斑点が存在するもの。
♂-f. diva Schäffler, 20018): (前・後翅の色調変異)斑紋が暗いオリーブ色をしているもの。
♂-f. kampsi Deslisle & Sclavo, 20153): (前・後翅の色調変異)斑紋が青色を帯びたもの。
(食草)アレクサンドラウマノスズクサ(Pararistolochia alexandriana)、ヒレオウマノスズクサ (P. meridionaliana )5)。