概    要

私たちの研究室では,生物機能を制御することができる有機化合物(生物制御分子)を獲得することを目的として,天然素材から化合物を抽出したり,自然界には存在しない化合物を有機合成したりします.さらに獲得した化合物の中から医薬品候補を探索し,その作用メカニズムを解析します.

 

1.  転移阻害剤の探索

細胞の転移は,様々な疾患の発症と関係しています.代表例は「がん」です.がん細胞は無秩序に増殖しながら他の組織へと浸潤,転移することによって人体に致命的なダメージを与えます.その他に,若年層が罹患する良性疾患においても細胞の転移が深く関与しているものがあります.子宮の内壁を構成している子宮内膜細胞は,卵巣や腹膜などに転移することによって子宮内膜症という疾患を引き起こしています.

従って,細胞の転移を阻害する化合物は様々な疾患の治療薬として有望です.化合物の転移阻害活性を評価する方法は複数知られていますが,高価な試薬や実験キットを用いる場合が多いです.また,たくさんの化合物の生物活性を評価するためには,細かな実験操作を精確に繰り返す必要があるため,高い実験技術も求められます.そこで私たちは,従来法よりも安価かつ簡便に活性評価を行う方法を確立し,効率的に転移阻害剤を探索しようとしています.

 

2.  非天然物の有機合成

植物,微生物などは様々な有機化合物を生産しており,医薬品候補化合物の宝庫といえます.従って,これらの資源から天然有機化合物を抽出し,その中から薬用物質を探索する試みが盛んに行われています.しかしながら,天然物は有用な生物活性と併せて,正常細胞に対する毒性などの副作用を示すものが多く,そのままでは医薬品に適用できない場合があります.また,生物が酵素を用いて合成できる構造は限られるため,自然界からは得ることができない化合物もあります.そのため,医薬品探索を効率よく進めるには「天然物+α」が必要と考えています.

私たちは,天然物の構造を改変しながら生物活性を調べることで,有用な活性を強化し,副作用を低減した誘導体の開発を行います(構造–活性相関研究).また,天然には存在しないような骨格をもった非天然有機化合物を合成することによって,医薬品探索資源の多様性拡大を目指します.