概    要

私たちの研究室では,生物機能を制御することができる有機化合物(生物制御分子)を獲得することを目的として,天然素材から化合物を抽出したり,自然界には存在しない化合物を有機合成したりします.さらに獲得した化合物の中から医薬品候補を探索し,その作用メカニズムを解析します.

 

1.  線維環境における細胞応答を抑制する化合物の探索

コラーゲンは組織の形態や機能の維持に必須のタンパク質ですが,過剰に生産されると組織を硬化させて繊維化疾患(肺線維症、肝硬変、腎硬化症など)の原因となります.私たちは,子宮内膜由来の細胞をコラーゲン線維上で培養すると通常培養時とは異なる細胞応答を示すことを発見しました(Biosci. Biotechnol. Biochem. 2022, 86, 1417).この現象を指標として生物活性物質を探索することで、子宮内膜がん,子宮腺筋症などの治療薬シーズの開発を目指しています。

 

 

2.  非天然物の有機合成

植物,微生物などは様々な有機化合物を生産しており,医薬品候補化合物の宝庫といえます.しかしながら,天然物は有用な生物活性と併せて,正常細胞に対する毒性などの副作用を示すものが多く,そのままでは医薬品に適用できない場合があります.また,生物が酵素を用いて合成できる構造は限られるため,自然界からは得ることができない化合物もあります.そのため,医薬品探索を効率よく進めるには「天然物+α」が必要と考えています.私たちは,天然物の構造を改変しながら生物活性を調べることで,有用な活性を強化し,副作用を低減した誘導体の開発を行います(構造–活性相関研究).また,天然には存在しないような骨格をもった非天然有機化合物を合成することによって,医薬品探索資源の多様性拡大を目指します.