現在使用されている医薬品や農薬などには,もともと天然に存在する植物や微生物が産生する化学成分として見いだされた物質(天然有機化合物;天然物)が多く存在しています.
そこで,当研究室では,植物や微生物を研究試料として,医薬シーズや農薬シーズとなりうる天然物を探し,その機能などを明らかにする,天然物化学研究を行っています.
研究の流れや内容 (専門用語を含む) は下記の通りです.
1.研究試料の収集:天然資源コレクションの構築
新規天然物や生物活性天然物の探索のため,当研究室では,継続したフィールドワークや共同研究を通して,植物や農産物残渣,陸上・海洋由来微生物といった天然資源を独自に収集・保存し,「天然資源コレクション」やその「抽出物コレクション」の構築・拡充を進めている.この独自のコレクションを用いて,3.で示す天然物探索を実施している.



2.微生物の休眠遺伝子活性化手法の開発
微生物のもつ,天然物の産生に関与する生合成遺伝子は,多くが休眠状態にあることが明らかにされている.そこで,当研究室では,微生物由来新規天然物の取得を目指し,休眠遺伝子の活性化に繋がる,様々な微生物培養法の実施・開発に取り組んでいる.このような培養法の実施・開発は,1. で示した天然資源コレクションの拡充にも繋がる.
近年,私たちは,微生物の生育環境や生物間相互作用,特に微生物を中心とした関係性に着目した培養法の検討を進め,休眠遺伝子の活性化を試みている.なかでも,病原菌の感染時における免疫動物細胞との相互作用を模倣し,動物細胞の存在下で微生物を培養する「微生物 x 動物細胞」の培養による新たな天然物探索手法を提唱し,微生物のみの単独培養では産生されない新規天然物を見出し,継続して研究を進めている .

3.新規天然物や生物活性天然物の探索
1. および2. で構築した天然資源コレクションを,がんや関節リウマチなどの細胞内シグナル伝達経路や薬剤耐性感染症を標的とした多様な生物活性試験や,TLCやHPLCなどによる網羅的な化学分析法でスクリーニングしている.その後,選択した天然資源抽出物から,カラムクロマトグラフィーなどを用いて新規天然物や生物活性天然物を分離・精製し,NMRやMSスペクトルなどによりその化学構造の決定を行っている.単離した天然物については,その機能解明や生合成遺伝子の推定等を試みている.

