ノンパラメトリック検定に関するよくある誤解

(2026年10月9日更新)

ノンパラメトリック法に関する誤解と利点

永田靖・𠮷田道弘「統計的多重比較法の基礎」1997年、サイエンティスト社、の第5章「ノンパラメトリック法」pp.63–64を手がかりに、順位に基づく検定について整理します。ただし、以下で扱う仮定や注意点は検定法や検定したい仮説によって異なり、ノンパラメトリック法全般に一律に当てはまるわけではありません。

“誤解”

  • 「ノンパラメトリック検定には分布についての仮定がない」は誤りです。例えば、Mann–WhitneyのU検定を位置や中央値の差の検定として解釈するには、各群の分布形が同じで、位置だけが異なるモデルを仮定します。一方、分布の同一性を帰無仮説とする検定として用いる場合と、位置の差を検定する場合とでは、必要な仮定と結果の解釈を区別する必要があります。
  • 「サンプルサイズが小さい場合にはノンパラメトリック法を用いればよい」とは限りません。大標本近似を用いる方法では、小標本で近似精度が問題になります。一方、Mann–WhitneyのU検定などには正確検定もあります。ただし、正確検定でも小標本では取り得るp値が限られ、設定した有意水準で棄却できない場合や、検出力が低い場合があります。
  • 「群ごとの母分散が異なる場合にはノンパラメトリック法を用いればよい」とも限りません。例えば、通常のMann–WhitneyのU検定は、不等分散の下で平均や中央値の等しさを検定するための一般的な代替法ではありません。不等分散の影響は、検定法と検定したい仮説に応じて考える必要があります。

“利点”

  • 順位としてしかデータを得ることができない場合や順序カテゴリカルデータでも取り扱うことができる。
  • 順位に基づく方法では、観測値の大きさそのものを使う方法に比べて、極端な値の影響を受けにくいという利点があります。ただし、外れ値やデータの混入の影響がなくなるわけではありません。

テキストを読んでいて気になったこと

実験テキストを見ていたら、少し気になる記述があって調べ物をしたのでメモ。井口豊(2025-02-17)等分散検定から t検定,ウェルチ検定,U検定への問題点が大変参考になりました。テキストでは教育的に正規性の検定(Shapiro–Wilk検定)、等分散性の検定(F検定)、分散分析、t検定、Welchのt検定、ノンパラメトリック法(Wilcoxonの符号付き順位検定、Kruskal–Wallis検定)、そして第一種の過誤を制御する方法としてBonferroniの方法が説明されています。教育的でよいのですが、1) 検定の多重性の問題(例えばF検定→t検定という手順)、2) 分散分析→多重比較という手順、3) ノンパラメトリック検定について、4) 正規性の検定の必要性、の4点が気になりました。講義や実習中ではきちんと説明されているかもしれませんが。

その1) 等分散性の予備検定で検定法を選ぶ問題

等分散性の検定(2群の場合はF検定、3群以上では分散分析(ANOVA))→F検定の結果を受けてWelchの補正を加えるか決定する、という手順が書かれています。なお、通常の一元配置分散分析(ANOVA)は群間の母平均の等しさを検定するものであり、等分散性の検定ではありません。等分散性の検定には、2群ではF検定、複数群ではBartlett検定やLevene検定などがあります。それぞれ分布についての仮定や頑健性が異なります。

  • 問題は、同じデータによる予備検定の結果を見て解析法を選ぶと、最終的な平均差の検定について、名目上の有意水準がそのまま保証されるわけではないことです。等分散性の検定が有意でなかったとしても、等分散であると確認できたわけではありません。
  • なお、独立な2つの検定で、それぞれの帰無仮説が真であり、有意水準を5%とすると、少なくとも一方で誤って棄却する確率は (\(1-0.95^2=0.0975\)) です。しかし、この計算は、等分散性の検定でStudentかWelchかを選ぶ手順における「平均差を誤って有意と判断する確率」を表していません。
  • 独立した2群の母平均を比較する場合には、等分散性の予備検定によって使い分けるよりも、あらかじめWelchのt検定を選ぶことが有力な方針です。ただし、Welchのt検定も、極端な非正規性や非常に小さい標本に対して万能ではありません。

等分散であるかどうかを確かめてから,普通の t 検定を使うか,Welch の方法による t 検定にするかを決めるというのは,よくない。最初から Welch の方法による t 検定を使えばよい。(青木繁伸(2007-02-08)二群の等分散性の検定; 井口豊(2025-02-17)等分散検定から t検定,ウェルチ検定,U検定への問題点)

総じて、Welchのt検定を使うことで誤った判断を下す確率が減るため、基本的には等分散性の仮定が成り立つかに関わらずWelchのt検定の使用が推奨されている。Rのデフォルトのt検定もWelchのt検定である。(野村康之、t検定の再考1: 等分散性)

この検定の多重性の問題ですが、例えば同じ確率分布に従う2つの群について、F検定とt検定をそれぞれ有意水準5%で連続して行ったとします。この場合の帰無仮説が正しいにもかかわらずそれを誤って棄却してしまう確率(第一種の過誤、αエラー)を計算します。両検定とも正しく帰無仮説を棄却しない確率は\(0.95 \times 0.95 = 0.95^2\)です。両方もしくは片方の検定で誤って帰無仮説を棄却する確率は\(1 – 0.95^2 = 0.0975\)となります。元々は第一種の過誤を5%以内に抑えたかったのに、検定全体としては9.75%と10%近い値になってしまうのが検定の多重性の問題です。

その2) 分散分析→多重比較という手順

分散分析で有意になった場合にのみ多重比較を行う、という手順が常に必要なわけではありません。Tukey法など、それ自体で多重性を調整する方法では、事前の分散分析で有意になることを適用条件にする必要はありません。

分散分析が有意でなくても、特定の多重比較が有意になる場合があります。また、その逆もあります。分散分析と多重比較では、検定統計量と棄却域が異なるためです。どちらの検出力が高いかは、群間の平均差の配置や、どの比較に関心があるかによって変わります。

例えば3群の場合、分散分析の帰無仮説は \(\mu_A=\mu_B=\mu_C\) です。全ペアの多重比較では、\(\mu_A=\mu_B\)、\(\mu_B=\mu_C\)、\(\mu_A=\mu_C\) という個々の仮説を、多重性を調整しながら検定します。これらの個別仮説がすべて成立することは、分散分析の帰無仮説と同じですが、検定手続きは同じではありません。

事前の分散分析が必要かどうかは、用いる多重比較法の手続きによって決まります。例えば、Fisherの制約付きLSD法では、分散分析で有意となることが手順に含まれます。一方、Schefféの方法では、同じモデルと有意水準の下で、分散分析が有意でなければ、どの対比も有意にはなりません。

Tukeyの方法、Dunnettの方法、あるいは各比較へのBonferroniの方法やHolmの方法による調整などでは、事前の分散分析の有意性を必須条件にする必要はありません。この違いは、F分布を使用するかどうかだけでは説明できません。また、これらの方法を「事後解析法ではない」と一律に分類することも適切ではありません。

全体の平均の等しさと、個々の群間差のどちらを調べたいかを明確にし、目的に合った解析手順を事前に決めることが大切です。

一言で答えると、「用いる多重比較法の手順の中に含まれている場合のみ一元配置分散分析を行う」となる。それ以外の場合には、分散分析は不要なのではなく、行わないことが原則である。(永田靖. 多重比較法の実際 応用統計学、1998 年 27 巻 2 号 p. 93-108)

その3) ノンパラメトリックな検定についての注意点

標本(群)に母集団が正規分布に従わないものがある場合は、Wilcoxonの順位和検定(Mann–WhitneyのU検定と等価)やKruskal–Wallis検定といったノンパラメトリックな検定を行う旨が書かれています。これは危険です。

Mann–WhitneyのU検定(Wilcoxonの順位和検定)を、一般に「平均の等しさ」や「中央値の等しさ」を検定する方法と考えるのは適切ではありません。通常のU検定では、帰無仮説を「2群の母集団分布が同じ」として検定統計量の帰無分布を構成します。一方、U統計量が捉える量は、独立に取り出した各群の値 (X,Y) について、\[\theta=P(X<Y)+\frac12P(X=Y)\]という確率です。両群の分布が同じなら \(\theta=1/2\) ですが、逆は成り立ちません。例えば、中心が同じで分散が異なる2つの正規分布では、分布は異なっていても \(\theta=1/2\) です。両群の分布形が同じで、位置だけが異なるモデルを仮定できる場合には、U検定を位置の差、したがって中央値の差の検定として解釈できます。しかし、分布形やばらつきが異なる場合には、有意な結果をそのまま平均差や中央値差と解釈できません。

「等分散性が必要か」という問いも、検定したい仮説と切り離して答えると混乱します。分布が同一という帰無仮説の下では、分散が存在するなら両群の分散も等しくなります。一方、U検定を計算するために、有限の分散そのものが必要なわけではありません。

分布形や分散が異なることを許しながら、上記の \(\theta=1/2\) を検定したい場合には、Brunner–Munzel検定が選択肢になります。この検定は、一般的な「中央値の等しさの検定」ではありません。母平均の差に関心があるならWelchのt検定など、中央値の差に関心があるなら中央値を対象とした分位点回帰など、比較したい量に応じて方法を選びます。いずれの方法でも、標本サイズと推測方法の妥当性を検討する必要があります。

対してt検定による2群比較の帰無仮説は「一つ目の母集団の平均値μ1が2つ目の母集団の平均値μ2と等しい」です。「平均値の差の検定」であり「中心極限定理」が効いてくるため、t検定は正規分布してないデータに対しても頑健(robust)であると言われています。ただし、正規母集団に対してはn = 2でも大丈夫なのに対して、「指数母集団の場合は,適切な結果を得るには,標本サイズが100以上必要」(井口豊(2022-12-06)小標本 t 検定の誤解:中心極限定理と一般化線形モデル)。ただし、必要な標本サイズは分布、群間の標本サイズの比、片側・両側検定の別、要求する近似精度などによって異なり、100という値を一般的な基準にはできません。

正規性も等分散性も成り立たない状況では、平均値の比較ならWelchのt検定、中央値の比較ならBrunner-Munzel検定が検定精度がよい傾向にある。(冨田 哲治、Brunner-Munzel検定)

Welchのt検定は、独立した2群の母平均を比較する際に、不等分散に対応できる方法です。また、有限の分散などの条件の下では、標本サイズが十分大きければ非正規分布にも適用できます。ただし、強い歪みや重い裾、小標本では近似が不十分になることがあります。順位検定とWelchのt検定は、一般には検定対象が異なります。そのため、どちらが一律に頑健あるいは脆弱であると結論付けるのではなく、何を検定しているかを明確にして比較する必要があります。

その4) 正規性の検定の結果を受けてt検定かノンパラメトリックな検定かを選択する問題点

「標本(群)ごとにShapiro–Wilk検定をおこなって各標本(群)の母集団が正規分布に従うかを検定」して、t検定かノンパラメトリックな検定かを選択する旨が書かれていました。

Shapiro–Wilk検定の結果だけで、t検定か順位検定かを機械的に選ぶことは勧められません。正規性の検定は、小標本では非正規性を検出しにくく、大標本では解析上問題にならない程度の逸脱も検出することがあります。また、同じデータに基づいて解析法を選択する手順全体の性質にも注意が必要です。

さらに、t検定から順位検定に変更すると、検定したい仮説まで変わる可能性があります。まず平均差、中央値差、確率的な大小関係など、何を比較したいのかを決めることが先です。

データの分布は、個々の観測値のプロット、ヒストグラム、Q–Qプロットなどで確認し、測定の仕組みや過去の知見も参考にします。ただし、小標本のヒストグラムだけで正規性を判断することは困難です。分散分析や回帰では、群をまとめた生データの形ではなく、モデルが仮定する誤差分布や残差に着目します。

用語のおさらい

  • 正規分布(せいきぶんぷ)— 平均 \(\mu\)、分散 \(\sigma^2>0\) によって定まり、次の確率密度関数を持つ連続確率分布。\[f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp\left[-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right]\]
  • 大数の法則(たいすうのほうそく) — 例えば、独立同分布の確率変数が有限の絶対期待値を持つとき、標本平均が、標本サイズの増加とともに母平均に収束するという法則。確率収束を述べる弱法則と、概収束を述べる強法則がある。
  • 中心極限定理(ちゅうしんきょくげんていり)— 例えば、独立同分布の確率変数が平均 \(\mu\) と有限の正の分散 \(\sigma^2\) を持つとき、\[\frac{\sqrt n(\bar X_n-\mu)}{\sigma}\]の分布が、\(n\) の増加とともに標準正規分布に近づくという定理。有限の標本サイズで標本平均が厳密に正規分布になる、という意味ではない。
  • t検定(ティーけんてい)— 大雑把に言うと、2つの群の平均値の差を全体の標準誤差で割った値を検定統計量t $$t_0 = \frac{\bar{X} – \bar{Y}}{\sqrt{U_e\left(\frac{1}{m}+\frac{1}{n}\right)}}$$ として、平均値が同じ場合(帰無仮説)にこのtが従う分布、t分布を元にして得られた検定統計量がどれほど起こりづらいか、を判断する。独立な正規母集団と等分散性を仮定したStudentの2標本t検定では、帰無仮説の下で、この統計量は自由度 \(m+n-2\) のt分布に従う。両側検定では、その絶対値を用いて両側の裾確率を求める。Welchのt検定では、Welch–Satterthwaiteの式による自由度のt分布で近似する。

見ておくべき動画

KyotoU Channel(2018-01-11)臨床研究者のための生物統計学「仮説検定とP値の誤解」佐藤俊哉(医学研究科教授)

統計モデルは一連の仮定(ランダム化・ランダムサンプリングがなされている、研究計画が遵守されている、すべての解析結果が報告されている、など)で構成されている。帰無仮説はその仮定の一つに過ぎない。P値が小さいことは「たくさんある統計モデルに必要な仮定のうちどれか1つあるいは複数が間違っている」ことを意味する。決して帰無仮説だけが間違いの対象ではない。

Rを使ったシミュレーション

参考サイト: 井口豊(2022-12-06)小標本 t 検定の誤解:中心極限定理と一般化線形モデル

以下では、有意水準5%での棄却率を比較します。ただし、棄却率を第一種の過誤率と呼べるのは、その検定の帰無仮説が成立している設定に限られます。帰無仮説が成立していない場合には、その設定での検出力としての意味を持ちます。

t検定、Mann–WhitneyのU検定、Brunner–Munzel検定では、一般に帰無仮説が異なります。したがって、すべての表で棄却率が5%に近い方法を「正しい方法」と判断することはできません。

反復回数は10万回です。真の棄却確率が5%の場合、推定棄却率のモンテカルロ標準誤差は約0.00069です。5%付近の細かな差には、シミュレーションによる偶然変動も含まれます。再現性のため、乱数のシード、使用した関数・パッケージとその版、計算不能値の扱いも記載します。

  • \(n=2\) や\(3\)では、検定の前提の妥当性をデータから判断することも、差を十分な検出力で捉えることも難しい。
  • 検定法は、正規性の有無だけでなく、比較したい量に合わせて選ぶ。
  • Mann–WhitneyのU検定は、一般には平均や中央値の差を直接検定する方法ではない。ただし、同一形状の位置シフトモデルの下では、位置の差として解釈できる。
  • Welchのt検定は母平均の比較に有用だが、極端な非正規性や極小標本に対して万能ではない。
  • 棄却率を評価する前に、その設定で各検定の帰無仮説が成立しているかを確認する。

母集団が正規分布の場合(等分散)

Studentのt検定

k <- 100000 # 標本取り出し反復回数
n <- 4 # 標本サイズ
r <- replicate(k, {
     x <- rnorm(n, mean=0, sd=1)
     y <- rnorm(n, mean=0, sd=1)
     c(mean(x), t.test(x, y, var.equal=TRUE)$p.value)
})
m <- r[1, ] # 平均値
p <- r[2, ] # 5%水準棄却数
reject_rate <- length(p[p<=0.05])/k # 5%水準棄却率
print (reject_rate)
[1] 0.04981
p値の分布

Welchのt検定

k <- 100000 # 標本取り出し反復回数
n <- 4 # 標本サイズ
r <- replicate(k, {
     x <- rnorm(n, mean=0, sd=1)
     y <- rnorm(n, mean=0, sd=1)
     c(mean(x), t.test(x, y, var.equal=FALSE)$p.value)
})
m <- r[1, ] # 平均値
p <- r[2, ] # 5%水準棄却数
reject_rate <- length(p[p<=0.05])/k # 5%水準棄却率
print (reject_rate)
[1] 0.0413
p値の分布

Mann–WhitneyのU検定

k <- 100000 # 標本取り出し反復回数
n <- 4 # 標本サイズ
r <- replicate(k,{
     x <- rnorm(n, mean=0, sd=1) #平均0、標準偏差1の正規分布からランダムサンプリング
     y <- rnorm(n, mean=0, sd=1)
     c(mean(x), wilcox.test(x, y)$p.value)
})
m <- r[1, ] # 平均値
p <- r[2, ] # 5%水準棄却数
reject_rate <- length(p[p<=0.05])/k # 5%水準棄却率
print (reject_rate)
[1] 0.02919
p値の分布

結果

同一の確率分布からn個の標本を2回取り出して2つの群に差があるかを検定する (p値を計算する)、を10万回繰り返してp ≦ 0.05となった確率。

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.05012 0.02321 –
3 0.05059 0.03456 –
4 0.04981 0.0413 0.02919
5 0.04999 0.04404 0.03144
6 0.05104 0.04493 0.04067
7 0.04942 0.0475 0.03808
8 0.04975 0.04699 0.05012
9 0.04983 0.04841 0.03832
10 0.05097 0.04846 0.04357
20 0.04845 0.05003 0.04874
30 0.05017 0.04939 0.05059
40 0.04979 0.04889 0.05027
50 0.04945 0.05065 0.04892
60 0.04934 0.04954 0.05057
70 0.0502 0.0482 0.05015
80 0.05082 0.05107 0.05006
90 0.05024 0.04976 0.05034
100 0.04899 0.04974 0.04987

モデル通りなのでStudentのt検定はn = 2でも正確です。Welchのt検定はn数が少ない時は棄却率が低いです。この設定では、両群の分布が同じなので、Mann–WhitneyのU検定の帰無仮説も成立しています。

ただし、正確検定のp値は離散的です。同順位がなく、各群の標本サイズが \(n\) の場合、両側正確検定の最小p値は \(2/\binom{2n}{n}\) です。したがって、\(n=2\) では約0.333、\(n=3\) では0.1となり、5%水準では棄却できません。表の「–」は検定不能を意味するのではなく、この条件で有意になり得ないことを表します。

\(n=4\) では、帰無仮説の下での5%水準棄却率は理論上約0.02857です。掲載結果の約0.029はこれと整合しており、大標本近似の失敗によるものではありません。

母集団が正規分布で分散が異なる場合

標本サイズが等しい場合

正規分布A(平均0、標準偏差=1、赤)vs. 正規分布B(平均値=0、標準偏差=3、黒)。

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.07343 0.03688 –
3 0.07413 0.05227 –
4 0.07121 0.05398 0.04841
5 0.06767 0.05187 0.04509
6 0.06437 0.05248 0.0494
7 0.06227 0.05126 0.054
8 0.06005 0.0508 0.0671
9 0.0599 0.05179 0.05365
10 0.06025 0.05017 0.0605
20 0.05343 0.05068 0.06728
30 0.05162 0.05059 0.06818
40 0.05231 0.05047 0.06974
50 0.05168 0.05018 0.06915
60 0.05254 0.04984 0.06906
70 0.05084 0.05022 0.0694
80 0.04975 0.04894 0.06913
90 0.0505 0.05116 0.06784
100 0.0503 0.05021 0.06722

Welchのt検定は理論通り不等分散の場合でも大丈夫でした。Studentのt検定はnが大きければ正しく振る舞っています。これはなぜかといえば標本サイズ(n)が等しいからです。生物系の実験の場合はn数を揃えるのが普通なのであまり意識されませんが、これはかなり大事です。独立2群で標本サイズが等しい場合には、StudentとWelchのt統計量は等しくなります。ただし、参照する自由度が異なるため、p値は一般に一致しません。有限分散などの条件の下で標本サイズが大きくなると、Studentのt検定も不等分散の影響を受けにくくなります。ただし、この2群の場合の性質を、そのまま多群のTukey法に一般化することはできません。

統計量tの計算式を下に示します。

Studentのt検定の統計量t(\(m\)と\(n\)は標本サイズ、\(\bar{X}\)と\(\bar{Y}\)は標本平均、\(U_x\)と\(U_y\)は不偏分散)

$$t_0 = \frac{|\bar{X} - \bar{Y}|}{\sqrt{U_e\left(\frac{1}{m}+\frac{1}{n}\right)}} $$ $$U_e = \frac{(m-1)U_x + (n-1)U_y}{m+n-2} $$ 両群の母平均が等しい場合には「統計量\(t_0\)は自由度\(\nu = m+n-2\)のt分布に従う」。

Welchのt検定の統計量t:

$$t_0 = \frac{|\bar{X} - \bar{Y}|}{\sqrt{\frac{U_x}{m}+\frac{U_y}{n}}} $$ 両群の母平均が等しい場合には「統計量\(t_0\)は自由度 $$\nu \simeq \frac{\left(\frac{U_x}{m} + \frac{U_y}{n}\right)^2}{\frac{U_x^2}{m^2(m-1)}+\frac{U_y^2}{n^2(n-1)}}$$ のt分布に従う」。

\(m = n\) の時は、Studentのt検定の自由度:$$ \nu_{Student} = 2(m-1)$$

Welchのt検定の自由度:$$ \nu_{Welch} = \left(1+\frac{2U_x U_y}{U_x^2 + U_y^2}\right)(m-1)$$

です。\(U_x = U_y\) ならば両検定の自由度も等しくなります。

標本サイズが異なる場合

次に片方(標準偏差が大きい方)のnを2倍にして同様に5%水準棄却率がどうなるか試してみます。

    5%水準棄却率
nA nB Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 4 0.02764 0.03732 –
3 6 0.02481 0.04337 0.02842
4 8 0.02256 0.04636 0.03206
5 10 0.02192 0.04828 0.02558
6 12 0.02114 0.04861 0.02713
7 14 0.01966 0.04846 0.02961
8 16 0.01961 0.04942 0.02801
9 18 0.01904 0.04894 0.02933
10 20 0.01779 0.04861 0.03106
20 40 0.01712 0.0498 0.03161
30 60 0.0172 0.05002 0.03247
40 80 0.01693 0.05006 0.03308
50 100 0.01711 0.04997 0.03287
60 120 0.01738 0.05036 0.03274
70 140 0.01668 0.05035 0.03205
80 160 0.01672 0.04971 0.03289
90 180 0.01651 0.05049 0.03343
100 200 0.01684 0.05071 0.03394

この設定では、Welchのt検定の棄却率が名目水準の5%に近い値になりました。Studentのt検定の棄却率は5%を下回っており、保守的に振る舞っています。

一方、分散が異なるため、通常のMann–WhitneyのU検定の「分布が同じ」という帰無仮説は成立していません。その棄却率を、平均の等しさに関する第一種の過誤率として解釈することはできません。

母集団が正規分布でない場合(二峰分布)(等分散)

ピークが2つあるフタコブラクダのような分布(二峰分布)を考えます(参考: 備忘録 a record of inner life(2015-02-23)Rでの分布作成と自作分布に従う乱数生成)。

fx <- function(x) dnorm(x, mean=2, sd=1)
gx <- function(x) dnorm(x, mean=-2, sd=2)
hx <- function(x) 1/2*(fx(x)+gx(x))
plot(hx, xlim=c(-10, 10))

$$h(x) = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi 1^2}}\exp\left(-\frac{(x-2)^2}{2\times 1^2}\right) + \frac{1}{\sqrt{2\pi 2^2}}\exp\left(-\frac{(x+2)^2}{2\times 2^2}\right)\right)$$という分布に従う乱数を生成します。

rbimodal <- function(x, m1=2, s1=1, m2=-2, s2=2) {
  u <- rbinom(x, 1, 0.5)
  v <- sum(u == 0)
  w <- x - v
  y <- c(rnorm(v, mean=m1, sd=s1), rnorm(w, mean=m2, sd=s2))
  return(y)
}

結果(二峰分布)

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.06412 0.03159 –
3 0.05416 0.0378 –
4 0.05186 0.0386 0.02903
5 0.05066 0.04235 0.03167
6 0.05317 0.04427 0.04131
7 0.05143 0.04655 0.03748
8 0.05117 0.04831 0.0502
9 0.05075 0.04865 0.03999
10 0.05224 0.04889 0.04317
20 0.05087 0.04944 0.0492
30 0.04999 0.04898 0.05071
40 0.05004 0.04958 0.04987
50 0.04907 0.05007 0.04913
60 0.04973 0.05102 0.04896
70 0.0507 0.04947 0.04822
80 0.05108 0.0495 0.04966
90 0.05016 0.04983 0.04975
100 0.05063 0.04968 0.04878

今回の二峰分布と標本サイズの設定では、t検定の棄却率は、標本サイズの増加とともにおおむね5%に近づいています。この結果は、非正規分布であってもt検定が適切に機能する場合があることを示します。ただし、あらゆる非正規分布や標本サイズに一般化できる結果ではありません。

母集団の片方が正規分布でない場合(二峰分布)

以下のような正規分布(赤)と二峰分布(黒)から取出した標本同士を比べます。

※注意書き

このような標本が取れたときに、まず考えてほしいのはこれらの標本は本当に比較するべきか、ということである。特に二峰分布のほうは、もしかしたら分けられるべき標本が混じっている可能性も考えるべきである。なにも考えずにただ検定するのは良い手とは言えない。(野村康之. Brunner-Munzel検定)

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.09888 0.04859 –
3 0.10786 0.08199 –
4 0.09623 0.08372 0.06325
5 0.0827 0.07315 0.05605
6 0.07439 0.06804 0.0574
7 0.0723 0.06359 0.07345
8 0.06735 0.06174 0.08358
9 0.06505 0.05893 0.07089
10 0.06399 0.05903 0.08386
20 0.05663 0.05369 0.1107
30 0.05363 0.0525 0.13456
40 0.05371 0.05193 0.15399
50 0.05201 0.05032 0.17493
60 0.05266 0.05315 0.19635
70 0.05169 0.04962 0.21546
80 0.05188 0.05155 0.23806
90 0.05183 0.04997 0.25626
100 0.0522 0.05032 0.27582

この設定では、両群の平均は0ですが、分布は同じではありません。また、正規分布を \(X\sim N(0,1)\)、掲載コードの二峰分布を \(Y\) とすると、\(P(X<Y)\approx0.55345\) となり、0.5ではありません。

したがって、U検定の棄却率が標本サイズとともに上昇していることは、平均の等しさに関する第一種の過誤の増大を示すものではありません。t検定とU検定が異なる仮説を扱っていることを反映しています。

Welchのt検定については、今回の設定では大きな標本サイズで棄却率が5%付近となりました。ただし、\(n=50\) を一般的な適用基準とすることはできません。

母集団の片方が正規分布でない場合(コーシー分布)

正規分布 (赤) vs. コーシー分布(黒)。コーシー分布は以下のような裾が重い関数です。
$$ f(x;x_0,\gamma) = \frac{1}{\pi}\frac{\gamma}{(x-x_0)^2 + \gamma^2} $$
裾が重く、期待値(平均)と分散が定義されません(\(x_0\)は最頻値、\(\gamma\)は半値半幅を与える値)。そのため、大数の法則と中心極限定理が成立しません。関数形はローレンツ関数とも呼ばれる形で、フーリエ変換NMRの勉強をしている時に片側指数関数のフーリエ変換が複素ローレンツ関数となる(つまりNMRピークの形状はローレンツ関数ということ)ので馴染があるかと思います。

  5%水準棄却率  
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定 Brunner–Munzel検定
2 0.03864 0.0178 – 0.034374
3 0.03061 0.01983 – 0.10554
4 0.02931 0.0208 0.03132 0.06119
5 0.02926 0.02222 0.03513 0.08471
6 0.02839 0.02215 0.04258 0.06577
7 0.02742 0.02202 0.03998 0.05692
8 0.02784 0.02232 0.05294 0.05751
9 0.0277 0.0225 0.04167 0.05662
10 0.02598 0.02123 0.04524 0.0542
20 0.02532 0.0221 0.05336 0.05326
30 0.02341 0.02129 0.05273 0.05124
40 0.02425 0.02222 0.05483 0.05229
50 0.02291 0.02155 0.05373 0.05132
60 0.02309 0.02169 0.05439 0.05169
70 0.02168 0.0206 0.05398 0.05109
80 0.02199 0.0209 0.05407 0.05177
90 0.02217 0.02134 0.05409 0.05088
100 0.02186 0.02106 0.05457 0.05151

 

コーシー分布には母平均が存在しないため、この設定では「2群の母平均が等しい」という帰無仮説を設定できません。t検定のp値を計算できたとしても、その棄却率を母平均の比較における第一種の過誤率と解釈することはできません。

順位に基づく方法では、母平均や母分散の存在は必須ではありません。ただし、ここでも各検定の帰無仮説が成立しているかを個別に確認する必要があります。

は正規分布とコーシー分布がともに0を中心とする対称分布であり、 \(\theta=1/2\) となるため、Brunner–Munzel検定の帰無仮説は成立します。一方、両群の分布は異なるので、通常のU検定の分布同一性の帰無仮説は成立していません。Brunner–Munzel検定も、今回の極小標本では棄却率が5%を大きく超える場合があり、小標本での近似には注意が必要です。

母集団が正規分布でない場合: 二峰分布 vs. コーシー分布

コーシー分布(赤)vs. 二峰分布(黒)。

x <- seq(-10,10,by=0.1)
plot(dcauchy, -10, 10, n=1001, col='red') #コーシー分布(赤)
lines(x, hx(x),col="black") #フタコブ分布(黒)
k <- 100000
N = c(2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100)
for (n in N){
     r <- replicate(k, {
          x <- rbimodal(n)
          y <- rcauchy(n) # コーシー分布に従う乱数発生
          c(t.test(x, y, var.equal=TRUE)$p.value,
            t.test(x, y, var.equal=FALSE)$p.value,
            wilcox.test(x, y)$p.value)
          })
     p_1 <- r[1, ]
     p_2 <- r[2, ]
     p_3 <- r[3, ]
     reject_1 <- length(p_1[p_1<=0.05])/k # 5%水準棄却率
     reject_2 <- length(p_2[p_2<=0.05])/k
     reject_3 <- length(p_3[p_3<=0.05])/k
     cat(n, format(reject_1, 5), format(reject_2, 5), format(reject_3, 5), "\n")
}  

結果(二峰分布とコーシー分布)

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.06123 0.03007 –
3 0.05921 0.04252 –
4 0.049 0.03999 0.04217
5 0.04399 0.03709 0.03969
6 0.03881 0.03345 0.05023
7 0.03627 0.03327 0.04951
8 0.03615 0.03138 0.06096
9 0.03367 0.03047 0.05204
10 0.03342 0.02977 0.05697
20 0.02933 0.02661 0.07293
30 0.02776 0.02695 0.08275
40 0.02662 0.02555 0.09228
50 0.02531 0.02464 0.10031
60 0.02519 0.02456 0.10849
70 0.02444 0.02405 0.11873
80 0.02441 0.02401 0.12666
90 0.02444 0.02302 0.13748
100 0.02375 0.02377 0.14521

母集団が正規分布で平均値と分散が異なる場合

正規分布(平均=1、標準偏差=2、赤)vs. 正規分布(平均値=-1、標準偏差=4、黒)。効果量(平均の差÷標準偏差)は$$\frac{|1-(-1)|}{\sqrt{\frac{2^2+4^2}{2}}} \fallingdotseq 0.632$$で中程度と言えます(d = 0.2(小さい効果)、0.5(中程度の効果)、0.8(大きい効果))。

この設定では母平均が異なるため、t検定の棄却率は第一種の過誤率ではなく、この対立仮説に対する検出力を表します。ただし、手法間の検出力を比較する際には、帰無仮説の下での実際の棄却率が適切に制御されているかも併せて確認する必要があります。

ここでは平均差を2群の母分散の平均の平方根で標準化しています。不等分散の場合、標準化の仕方は一意ではありません。また、効果量の「小・中・大」という目安は、研究分野や実質的な重要性を置き換えるものではありません。

  5%水準棄却率
n Studentのt検定 Welchのt検定 Mann–WhitneyのU検定
2 0.08122 0.03849 –
3 0.10877 0.07941 –
4 0.13293 0.10722 0.08771
5 0.15622 0.13357 0.10983
6 0.17949 0.16056 0.14395
7 0.20341 0.18465 0.16496
8 0.22851 0.20847 0.21961
9 0.25064 0.23274 0.2131
10 0.27669 0.25696 0.24706
20 0.499 0.48885 0.47347
30 0.6711 0.66596 0.64369
40 0.79825 0.79321 0.76642
50 0.87752 0.87767 0.85248
60 0.9303 0.927 0.9094
70 0.95973 0.95921 0.94547
80 0.97866 0.97803 0.96824
90 0.9882 0.98743 0.98103
100 0.99358 0.99353 0.98912

参考文献

1) 永田靖・𠮷田道弘(1997).統計的多重比較法の基礎 サイエンティスト社

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