研究分野について

研究紹介~研究分野について~

ここでは、私たちの研究と研究分野とのかかわりを紹介します。  

 

応用微生物学(スクリーニング・培養・分離・同定)

私たちの研究室では、微生物を使って研究を行っています。そしてこの微生物を専門に扱う学問が「応用微生物学」です。  微生物は肉眼では観察することができなくてとても小さいのですがそれでも立派な生物です。微生物と人間とのかかわりは多岐にわたっており、人間は微生物の力を巧みに利用することで、医薬品や食品添加物など、さまざまな有用物質を作ることに成功し恩恵を受けてきました。また、微生物は人間だけでなく植物ですら生育できないような、強酸性、高温や高圧などの過酷な環境条件下でも適応する能力を持つので、生物工場としての環境再生の切り札として注目されています。このように、微生物は無限大の能力を秘めた生物なのです。  私たちの研究室では、自然界の土壌から微生物をスクリーニングして、さまざまな能力を持つ微生物を発見しています。微生物あるいは微生物の生産する酵素の反応を用いて、未利用資源バイオマスや農産廃棄物に含まれる糖成分の有効利用に関する研究、そして、天然には微量しか存在しない機能性の糖である希少糖を作り出すための研究を行っています。

 

生物工学(醗酵・酵素反応・固定化酵素・生物反応器)

「生物工学」という言葉は聴いたことがないと思うかもしれません。でも、英語に翻訳した「バイオテクノロジー」という言葉を聞けば少し親近感を持ってもらえるでしょうか。「生物工学」とは、醗酵および酵素反応で有用物質を工業的に大量生産する技術を専門に扱う学問です。  生物工学の研究には、動物細胞や植物細胞(細胞工学)、微生物細胞(微生物工学)およびこれらの酵素(酵素工学)が用いられています。微生物を用いて有用な物質を生産することを特に醗酵と呼んで、人間にとって悪い作用をする腐敗とは区別しています。微生物醗酵によって、酒、味噌、しょうゆ、チーズ、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品が作られるだけでなく、医薬品や食品添加物製造の原料となるアミノ酸、核酸、有機酸、抗生物質、ステロイド、インターフェロンなどが工業的に作られています。また、酵素はほとんどが微生物を用いて作られており、医薬品や食品添加物、日用品に広く利用されています。  このようにさまざまな分野に応用できるのですが、醗酵にしても酵素にしても生物現象を利用するので、環境的要因の影響を受けやすく、安定して長期間連続生産を行うのがとても難しいのです。この欠点を克服するための研究は日進月歩であり、微生物や酵素を不溶性の担体に固定化することでこれらを安定化させしかも再利用しやすくすることを可能にする固定化微生物・固定化酵素の作製や固定化技術を発展させた連続反応器、すなわち、バイオリアクタの作製といった革新的な技術が開発されています。現在では、熱耐性微生物由来の固定化酵素を用いることで、50℃以上の温度であっても1年以上安定で連続的に酵素反応を続けられるバイオリアクタが工業的な物質の大量生産に用いられています。  もちろん、私たちの研究成果により大量生産が成功した、希少糖D-プシコースやD-アロースの生産にもこの技術を利用しています。

 

遺伝子工学(クローニング・シークエンス・大量発現・発現制御)

遺伝子操作によっておもに微生物を用いてクローンを作成し、目的の生産物を大量に得る技術を専門に扱う学問が「遺伝子工学」です。最も新しい研究分野でありわずか60年間の歴史の中で急速に発展してきました。  私たちの研究室でも遺伝子工学は欠かすことのできない技術となっています。未利用バイオマス資源や農産廃棄物から糖成分を取り出すための研究では、多糖分解酵素はカビが生産するのですが、作用が十分でないのと酵素が単一ではないので、ほとんどの酵素は遺伝子操作により、酵母のクローンを用いて組み換え酵素を得ています。希少糖の大量生産にも酵素反応を用いていますが、貴重な酵素を含めてすべての酵素は遺伝子操作により、大腸菌のクローンを用いて組み換え酵素を使って生産しています。組み換え酵素がなければ、希少糖D-プシコースやD-アロースの大量生産は成功していなかったでしょう。  また、ゲノムプロジェクトにより様々な生物の全ゲノム配列が決定されたことにより、遺伝子工学的に酵素やたんぱく質の構造を変えることで機能性や安定性を向上させることが可能となりつつあり、この分野の研究の発展は目覚ましいものです。

 

 

希少糖科学(大量生産・製品化・構造解析)

「希少糖科学」という学問は、香川大学でしか学ぶことのできない特色のある新規の分野であり、新しい生命科学の創造を目指す「挑戦的研究」です。  希少糖(Rare Sugar)は希少価値と単糖の単語を組み合わせた造語で、希少金属が天然にほとんどあるいはまったく産出しないにもかかわらずきわめて有用な化学物質であるのと同様、希少糖がこのような貴重な単糖であることを願って命名されました。  糖はわれわれの生活の中に普遍的に存在する化学物質のように思うかもしれません。でも実際は、全59種類の単糖のうち自然界に多く存在する単糖はわずか7種類であり、残りの52種類はすべて存在量の少ない希少糖です。しかも、わずかな分子構造の違いでその存在量が異なるだけでなく、研究が進むにつれ、「希少糖には思いもよらない機能性がある」ということがわかってきたのです。  このように、希少糖は入手が困難であるため用途開発が進んでいなかったのですが、希少糖の生産を実現させる酵素の発見および、これらの酵素反応と単糖の分子構造を関連づけたイズモリングによる生産戦略の体系化により、すべての希少糖の生産が可能になりました。これは希少糖研究センターだけが有する高度な生産技術であり、世界最高品質を誇る希少糖を作ることができます。さらに、生産設備の整った希少糖生産ステーションの稼働により、安価なD-フルクトースから希少糖生産の出発原料となるD-プシコースや医薬品への応用が期待されるD-アロースの大量生産が可能となり、新たな研究段階へ進む基盤ができました。  希少糖は「糖」なので化学合成物質に比べて生態系にやさしい物質であり、人体に対する作用(医薬品としての副作用)が少ないものと考えられます。この特徴により、特定の研究分野に限定されない多種類の応用の可能性を秘めています。たとえば、大量に供給することが可能になったD-プシコースにはインスリン分泌促進作用、動脈硬化防止作用などの生理活性が、D-アロースには臓器虚血保護作用、がん細胞増殖抑制作用などの生理活性があり、医薬品や機能性食品あるいは化粧品などへの応用が期待できます。また、植物の生長調節作用は農薬としての開発の可能性を示していますし、さらには工業材料としての応用も期待できます。  このように、希少糖に潜む新機能の解明とその応用化をとおして、新しいライフサイエンスの分野を切り拓くこと、産業を活性化させること、そして人類の健康・福祉への貢献をめざして、研究成果を発信しつづけています。  香川大学には、希少糖研究センターが設置されており、2006年の農学部改組に伴い大学院農学研究科希少糖科学専攻も設置されました。また、同年の希少糖生産ステーションの完成により、希少糖の生産や用途開発の研究だけでなく、課題探求能力を備えた高度人材育成の場として、希少糖に関する教育活動を推進しています。

 

環境科学(有用な未利用糖資源の有効利用とリサイクル)

土壌や水、空気の環境を専門に扱う学問が「環境科学」です。香川大学では、瀬戸内海に面する香川県の特徴を生かした瀬戸内の水環境に関する研究を推進しています。  私たちの研究室では、未利用資源のリサイクル技術を生かした研究として、香川県ならではの問題であり、環境負荷の高いうどんのゆで汁排水を糖質資源と位置づけ、その浄化処理と資源化を同時に行う浄化技術の開発を目指した研究を行っています。一大ブームとなった讃岐うどんですが、香川県では、うどんのゆで汁排水による環境汚染が問題となっています。うどんの生産量が伸びたことによりうどんのゆで汁排水も爆発的に増えました。そして、ゆで汁はでんぷんを多く含むため、水質汚染を示す化学的酸素要求量(COD)の値が一般家庭排水の10倍なのです。そこで私たちの研究室では、香川県と共同で、安価で小型な廃水処理装置の開発に着手し、ゆで汁に含まれる糖のリサイクルにつながる研究を行っています。