香川大学発の希少糖

希少糖は、かがわで生まれました

 かがわには、古くから「さぬき三白」という先人たちの努力により生まれた特産品がありました。気候が温暖で雨の少ない地域特性に合った作物の「サトウキビ」と「綿」、雨の少ない自然環境を生かした「塩」の3つの「白い」産品が名前の由来と言われています。伝統が受け継がれていく中で、塩田はすべて瀬戸内工業地域の一部になり、綿花栽培も産業の近代化と安価な外国産品の輸入により競争力を失い、1960年代ごろまでには行われなくなりました。一方、讃岐の白砂糖は品質が良く、なめらかな舌触りやくちどけの良さ、上品な甘みがあり、サトウキビ栽培が衰退した現在でも、高級和洋菓子の原料や型抜きした和三盆糖として、伝統が継承されています。

 このように、かがわと糖のかかわりの歴史は古く、香川大学農学部においても、山中啓先生(香川大学名誉教授)の、でんぷんから酵素を用いて、砂糖に代わる異性化糖を生産する研究など、古くから活発な研究がおこなわれてきました(1)。そして、糖研究のDNAは、何森健先生(香川大学名誉教授)に受け継がれ、希少糖の研究により、大きく進化を遂げることになりました。香川大学農学部の食堂裏の敷地内から採取した土壌から、D-ソルボース発酵を行う微生物を発見し、それが、希少糖のD-タガトースとD-ソルボースに変換するD-タガトース3-エピメラーゼという、新しい酵素の発見をもたらしました(2)。希少糖が香川大学農学部で生まれてから20年以上の歳月を経て、新しく「さぬき三白」の一員となることができたかもしれません。ブドウ糖・果糖を主成分に、希少糖が15%程度含まれた希少糖含有シロップ(レアシュガースイート)の販売が開始され、多くの食品開発にも利用されており、かがわの新しい特産品になりつつあります。


希少糖のこと、知っていますか?


 希少糖とは、自然界に微量しか存在しない単糖とそれらの誘導体と定義されています。希少糖に対し、自然界に大量に存在する単糖もあります。ブドウ糖(D-グルコース)や果糖(D-フルクトース)などは、植物に多量に含まれ、光合成によって作られています。希少糖は、種類は多いのですが微量にしか存在しません。ただ、希少糖も全く存在しないということではなく、加熱処理やアルカリ性の条件では、自然に異性化が起こるため、私たち人間では、1日に0.1グラム程度は、希少糖を日常的に食べていることになります。

 希少糖は、自然界に存在量が少ないため、研究するにも入手が困難でしたが、香川大学農学部では、希少糖に注目した研究がすすめられてきました。用途開発の研究を行うには、まず、希少糖をたくさん作る必要があります。新規酵素D-タガトース3-エピメラーゼの発見により、D-タガトースとD-ソルボースだけでなく、果糖から希少糖のD-プシコース(アルロース)を作ることができました。新たに分離した微生物の作る新規酵素L-ラムノースイソメラーゼにより、D-プシコースからD-アロースも作ることができました。さらに研究は進められ、希少糖を含む全単糖の生産戦略図である「イズモリング」の構築(3)により、単糖の誘導体など次世代の希少糖を作り出す研究も進められています。


新しい人と糖の関わりを目指して


 最近は、飽食・高齢化社会にあって、「糖質ゼロ」が特に飲料水などでは合言葉のように使われるようになっています。まるで糖は、私たちの健康を害する悪者であるかのような誤解を生じかねない。しかし、でんぷんやブドウ糖などの糖質は私たちの主要エネルギー源であることに変わりはありません。1973年頃になってブドウ糖を果糖に変換する酵素が日本で発見され、異性化糖が誕生しました。ここまでで糖としての「エネルギー源」(一次機能)・「甘味物質」(二次機能)といった主な役割は十分に理解され、糖の研究は終わったと考えられていました。1985年頃、食品の第三の働きとして生体調節機能(三次機能)が世界で初めて日本で見いだされ、このような機能を持つ食品が機能性食品といわれるようになりました。そして、オリゴ糖に生体調節機能があることが示されて以後、様々なオリゴ糖の研究が精力的にすすめられました(4)。一方、エネルギー源を担う糖ではない、希少糖に注目した研究者は、何森健先生を除いておらず、著書においては「落ち葉拾い的研究」と記述されています(5)。ところが、1990年代に入り、希少糖を作ってみると、思いもよらない、意外な性質を持つことが、次々に発見されました。希少糖の数は多くあり、今後、さらに多くの利用分野での研究が進めば、予想すらしなかった用途に希少糖が使われていく可能性があります。そして、新しい人と糖とのかかわりができつつあります。
(1)「化学と生物」48巻(2010)9号 p.643-651
(2)J.Ferment.Bioeng., 74(1992), p.149-152
(3)J.Biosci.Bioeng., 97(2004), p.89-94
(4)「生物工学会誌」91巻(2013)1号 p.14-17
(5)「希少糖秘話」、希少糖文庫

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